経団連「女性と健康」に関する調査結果を公表
DEI推進、健康経営、人的資本経営への注目が高まる中、昨年経済産業省が試算を行った女性特有の健康課題に起因する約3.4兆円(※1)もの労働損失という経済的インパクトは大きな話題となり、企業が女性の健康支援に向き合うべき課題であることを明確に示しました。
この状況を受け、経団連は会員企業を対象に、女性と健康に関する取り組みの実態調査を実施しました(調査期間:2024年12月13日~2024年12月26日、調査対象:経団連ダイバーシティ推進委員会、同企画部会所属企業、回答件数:96件)。今回は、この調査結果から浮かび上がった現状と課題について、見ていきたいと思います。
(1)依然として低い生理休暇取得率
労働基準法で定められている生理休暇ですが、今回公表された経団連の調査によると、制度の導入率は96.9%であるのに対し、半数以上の企業が「利用率10%未満」と回答し、「導入していない、利用実態を確認したことがない・わからない」と回答した企業と合わせると約7割にも上ることが明らかになりました。
この数字は、制度の認知度こそあるものの、多くの企業において、女性従業員が安心して生理休暇を取得できる環境が整備されていない現状を物語っています。実際に、今回の経団連調査では、女性の健康支援に関する各種制度について「満足度を確認したことがない・わからない」と回答した企業が多く、実際の評価が十分に把握されていない状況も明らかになっています。
一部企業や自治体では、生理休暇の名称変更や積立保存休暇への適用といった取得促進の動きが見られますので、こうした先進事例などを参考にしながら、PDCAを回し、現場の働きやすさを向上させる制度へとブラッシュアップさせていきたいところです。
(2)対策が遅れる更年期障害
経済産業省が試算した経済損失3.4兆円のうち、約1.9兆円を占めるのが女性の更年期症状によるものです。これは、パフォーマンス低下、欠勤、そして離職といった形で企業の生産性に深刻な影響を与えうることを示しています。しかし、今回の経団連調査では、更年期障害に対する休暇・休職制度については6割以上の企業が、また治療費補助といった支援制度の導入については、およそ9割の企業が「特に導入・実施について検討したことはない」「過去に導入・実施について検討したことはあるが、導入しなかった」と回答しました。
この結果は、多くの企業が更年期障害の潜在的な影響を十分に認識できておらず、具体的な対策が後手に回っている現状を浮き彫りにしています。更年期症状は、管理職を含む幅広い年齢層の女性の就労意欲や継続就労に影響を与える可能性が指摘されています。企業が社員の定着率向上や女性管理職の増加を目指す上でも、更年期対策は喫緊の課題と言えるでしょう。
現在、従業員301人以上の企業に義務付けられている女性活躍推進法に基づく情報公表項目には、継続就業率や管理職比率などが含まれていますが、2023年に実施された内閣府の調査(※2)では、健康課題を抱える女性ほどキャリア志向が弱くなる傾向や、健康課題により離職(転職含む)を経験した割合が15%と、男性よりも高くなっていることが報告されています。
労働人口の減少と生産性向上が喫緊の課題であるいま、企業は女性の健康支援を単なるコストではなく、生産性向上と企業価値向上に繋がる戦略的な「投資」として捉え、より一層の取組促進を実現していく必要性に迫られることになっていくでしょう。
(※1)経済産業省「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」(2024年)
(※2)内閣府男女共同参画局「令和5年度 男女の健康意識に関する調査報告書」(2023年)
参考リンク
日本経済団体連合会「「女性と健康」に関する調査結果」(2025年4月)
https://www.keidanren.or.jp/policy/2025/023.pdf
経済産業省「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」(2024年2月)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/jyoseinokenko/jyosei_keizaisonshitsu_r2.pdf
内閣府男女共同参画局「令和5年度 男女の健康意識に関する調査報告書」(2023年3月)
https://www.gender.go.jp/research/kenkyu/kenkou_r05s.html
(菊地利永子)

