先日公布された改正公益通報者保護法の概要
本国会において、労働社会保障関係諸法令としては、労働安全衛生法、年金制度改革法、労働施策総合推進法などの改正が行われましたが、これら以外にも対応が必要な法改正が行われています。それが公益通報者保護法です。
公益通報制度については兵庫県の事件で何かと話題になりましたが、近年の事業者の公益通報への対応状況及び公益通報者の保護を巡る国内外の動向に鑑み、以下の4点の改正が行われます。
1.事業者が公益通報に適切に対応するための体制整備の徹底と実効性の向上
- 従事者指定義務に違反する事業者(常時使用する労働者の数が300人超に限る)に対し、現行法の指導・助言、勧告権限に加え、勧告に従わない場合の命令権及び命令違反時の刑事罰(30万円以下の罰金、両罰)を新設する。【第15条の2、第21条、第23条関係】
- 上記事業者に対する現行法の報告徴収権限に加え、立入検査権限を新設するとともに、報告懈怠・虚偽報告、検査拒否に対する刑事罰(30万円以下の罰金、両罰)を新設する。【第16条、第21条、第23条関係】
- 現行法の体制整備義務の例示として、労働者等に対する事業者の公益通報対応体制の周知義務を明示する。【第11条関係】
2.公益通報者の範囲拡大
- 公益通報者の範囲に、事業者と業務委託関係にあるフリーランス(※1)及び業務委託関係が終了して1年以内のフリーランスを追加し、公益通報を理由とする業務委託契約の解除その他不利益な取扱いを禁止する。【第2条、第5条関係】
※1フリーランスの定義は、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」第2条を引用して規定。
3.公益通報を阻害する要因への対処
- 事業者が、労働者等に対し、正当な理由がなく、公益通報をしない旨の合意をすることを求めること等によって公益通報を妨げる行為をすることを禁止し、これに違反してされた合意等の法律行為を無効とする。【第11条の2関係】
- 事業者が、正当な理由がなく、公益通報者を特定することを目的とする行為をすることを禁止する。【第11条の3関係】
4.公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済の強化
- 通報後1年以内(※2)の解雇又は懲戒は公益通報を理由としてされたものと推定する(民事訴訟上の立証責任転換)。【第3条関係】
※2事業者が外部通報があったことを知って解雇又は懲戒をした場合は、事業者が知った日から1年以内。 - 公益通報を理由として解雇又は懲戒をした者に対し、直罰(6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金、両罰)を新設する。法人に対する法定刑を3,000万円以下の罰金とする。【第21条、第23条関係】
- 公益通報を理由とする一般職の国家公務員等に対する不利益な取扱いを禁止し、これに違反して分限免職又は懲戒処分をした者に対し、直罰(6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金)を新設する。【第9条、第21条、第23条関係】
この改正法は2025年6月11日に公布されました。施行は公布から1年6月以内とされていますので、2026年のどこかで施行されます。これから徐々に情報が出て来ると思いますので、対応を進めましょう。
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参考リンク
消費者庁「公益通報者保護法と制度の概要」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview
(大津章敬)

