改正労災法成立~複数就業者への通災の認定拡大

 先日ご紹介した改正労働安全衛生法と同時に、改正労働者災害補償保険法(以下「労災法」)も成立し、複数就業者に対する通勤災害認定の拡大が行われています。


 近年、ワークシェアリングの拡大や社会保険料抑制を目的とした短時間労働者の増加などの要因により、複数の事業場で勤務する複数就業者が増加しいます。しかし、これまで労災法では、通勤災害は原則として事業場と住居の間における災害を対象にしており、こうした複数就業者の就業場所間における通勤は想定外とされていました。


 そこで今回の改正ではこうした複数就業者の実態を反映し、通勤の範囲に関して「就業の場所から他の就業の場所への移動及び住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動を通勤災害保護制度における通勤に含める」と定められました。これにより通勤災害の範囲が格段に広がり、労働者保護としての機能が拡充されたのです。


 具体例を用いて考えてみましょう。A社で4時間、B社で4時間勤務をしている者がいるとします。毎朝、自宅からA社に出社(自宅→A社)し、A社で勤務の後、直接B社に向かい(A社→B社)、B社での勤務の後、自宅に戻る(B社→自宅)という日々を過ごしているとした場合、現在の労災法では、先に説明したとおり、[事業場]と[住居]間における災害を通勤災害の対象としているため、A社→B社については、通勤災害と認められませんでした。今回の改正によって、この部分についても通勤災害として認められることになったのです。


 こうした法改正は副業を持ち、複数の事業所で就業する労働者の増加という実態が前提となっている訳ですが、事実、最近はこれまで就業規則で禁止していた兼業を条件付きで認める企業も増えてきています。同一の会社で継続して勤務することで給与が徐々に上がる時代ではなくなってしまった今、兼業禁止規定について見直しの検討をする時期が来ているのでしょう。企業の実務としては、まず、複数就業に関し、どのような取り扱いを行うかを再度明確にした上で、複数就業者の把握および通勤災害発生時の対応方法を定めておく必要があります。


 なお、この論点に関しては休業時の給付基礎日額の問題など、細かな論点が発生しまので、今後も通達等を確認の上、当ブログで取り上げて行く予定をしています。


(宮武貴美)