パワハラがもたらす損失にはどのようなものがありますか?

 服部印刷では、引き続きパワハラに関するレクチャーを大熊社労士から受けている。



福島照美福島さん:
 私は経験したことがないのですが、パワハラがあると職場の雰囲気は当然、悪くなりますよね。想像しただけでも怖くなってしまいます。
大熊社労士:
 そうですね。パワハラを受けている社員は精神的な被害を受けますが、周囲にいる社員も恐怖を感じ、行動が萎縮したり、士気が下がるなどダメージを受けるでしょう。これがパワハラ問題の影響の大きいところです。しかし、パワハラを行っている者は、以前から同様の行為を無自覚に行っているため気付いていないことが多いのです。
福島さん:
 そんなものなんですね。しかし、パワハラ上司のもとでは、社員も続かないのではないでしょうか?
大熊社労士:
 社会経験のない高校や大学を卒業したての社員には耐えられないでしょうね。その結果、社員の定着率が非常に悪くなりますし、また異動でそのパワハラ上司のもとに配属になった社員も被害を受けたり、職場環境の悪さを感じて辞めていくことになりかねません。
宮田部長宮田部長:
 人材の確保が難しいときですから、せっかく確保した新入社員や優秀な社員が流出するのは、できるだけ防ぎたいですね。
大熊社労士:
 そうですね。社員の定着が悪かったり、優秀な社員が流出することになれば、業務に支障が出ることになります。特に御社では受注が好調ですから、業績にも大きな影響が出ることになるでしょうね。
服部社長:
 私が恐れているのは、社員の流出が連鎖反応的におこってしまい業務そのものが回らなくなり、お客様に迷惑がかかってしまうことです。とにかく、そのような事態だけは避けねばなりません。幸い、わが社ではこれまでパワハラなどで職場の環境が悪くなったことはなかったのですが、これから先、安心とは言い切れないので、きちんとした管理を行っていく必要があると考えています。
大熊社労士大熊社労士:
 おっしゃるとおりです。その他のパワハラの影響として、社員がパワハラが原因で精神的な疾患に陥った場合には、会社に対し損害賠償を求められることがあります。最近あった裁判で、パワハラによる自殺に対する労災認定判決として静岡労基署長(日研化学)事件があります(東京地裁判決 平成19年10月15日)。これは社員が自殺したのは、上司の言動に起因する精神障害によるものであるとして、原告が労災の遺族補償給付の支払いを求めたところ不支給の処分がなされたため、その取り消しを求めた事件です。
福島さん:
 その事件では、パワハラを行ったと思われる上司はどのような発言をしたのですか?
大熊社労士:
 「存在が目障りだ、居るだけでみんなが迷惑している。おまえのカミさんも気がしれん、お願いだから消えてくれ」「おまえは会社を食いものにしている、給料泥棒」「何処へ飛ばされようと俺は仕事しない奴だと言い触らしたる」などと発言し、裁判所はこれらの発言が過度な心理的負荷となり、精神障害を発症させたと結論付けました。
福島さん:
 具体的な状況はわかりませんが、やはりちょっと行き過ぎですね。そんなこと言われたら相当辛いですよ。
大熊社労士:
 上司と部下との間で意見の相違があることは避けられませんが、今回の判決では「上司とのトラブルの内容が、通常予定されている範囲を超える場合には、従業員に精神障害を発症させる程度に過重であると評価される」とした点に特徴があります。この事件は、労災認定の判断をめぐる争いでしたが、今後はパワハラによって社員が精神的疾患に陥った場合には、社員やその家族から会社に対し損害賠償を求められることもあると思われます。
服部社長服部社長:
 上司と部下の関係を、これまでのように当事者のみの問題として放置しておいてはいけないということですね。会社としても管理職に任せるだけでなく、適切に職場管理を行う必要があることが、よくわかりました。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。前回に引き続き、パワー・ハラスメント(パワハラ)について取り上げてみました。パワハラが企業にもたらす損失として中央労働災害防止協会が行った調査では、社員の心の健康を害する、職場風土を悪くする、本人のみならず、まわりの士気が低下する、職場の生産性を低下させる、十分に能力発揮ができない、優秀な人材が流出してしまうなどが上位に上がっています。これらは、直接的に数字で表せない内容だけに隠れてしまいがちですが、企業にとってはとても大きな損失です。経営者や人事担当責任者のみなさんはまず、このことをご理解ください。


 そういえば、名南経営の鷹取社労士が講師を務める「パワハラ・セクハラ その現状と企業に求められる実務対策」セミナー(8月26日/豊田市)の開催が近付いてきました。まだ受付中のようなので、お近くの方は是非ご参加ください。
https://www.meinan.net/seminar/20080826rout.html



関連blog記事
2008年8月11日「パワハラと注意指導との境目はどこですか?」
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2008年8月4日「同僚の前でひどく怒鳴ってしまった、これはパワハラになるのでしょうか?」
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2007年12月19日「多くの職場で見られる「いじめ」の実態」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51200561.html
2007年10月14日「組織を悩ますコミュニケーション下手の増加」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51113496.html
2007年5月04日「7割以上の社員が管理職へのパワハラ研修の実施を要望」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/50959952.html
2005年05月21日「労働相談内容に関する東京都産業労働局の調査結果とパワハラの増加」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/22468148.html


参考リンク
8月26日開催セミナー「パワハラ・セクハラ その現状と企業に求められる実務対策」(豊田市)
https://www.meinan.net/seminar/20080826rout.html
社団法人産業カウンセラー協会「産業カウンセラー440 人が見る職場/悲惨さ増す「職場のいじめ」の実態」
http://www.counselor.or.jp/pdfs/071212.pdf


(鷹取敏昭)


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