パワハラと注意指導との境目はどこですか?

 大熊はあるお客様を訪問後、時間の余裕もあったので、電話連絡を入れた上で、服部印刷に立ち寄ることにした。実は、先週相談のあった無断欠勤者が、パワハラが原因かもしれないということが気になっていた。



大熊社労士:
 先週ご相談のあった無断欠勤した社員は、どうなりましたか?
宮田部長宮田部長:
 ご心配をおかけしましたが、大熊さんに相談した日に本人と会うことができ、その翌日から職場に出てきて働いています。一時は、パワハラが原因で大きな問題になるのではないかと心配しましたが、違ったようです。上司から叱責を受けた当日は、本人もかなり落ち込んでいましたのは確かですが、無断欠勤はここのところの猛暑で体調が悪くなり、寝込んでいたようです。連絡を取らなければならないと思いつつも、気づいたときは既に昼近くになっていたので、連絡しにくかったようです。この件は注意しましたし、本人も反省しています。
大熊社労士:
 そうですか、それはよかった。
服部社長服部社長:
 しかし、最近パワハラだとか職場でのいじめが問題になっているようなことを耳にするようになりました。これまでは気にも止めていませんでしたが、わが社でも注意しなければならないように思います。ところで、なんとなく分かっているつもりですが、パワハラについて改めて教えていただけませんか?
大熊社労士:
 はい、パワハラとは、職権などのパワーを背景にして、本来の業務の範疇を超えて、継続的に人格と尊厳を侵害する言動を行い、就業者の就労関係を悪化させ、あるいは雇用不安を与えること、とされています。
宮田部長:
 難しくてすぐには理解できませんが、そもそも上司と部下との関係は、指揮命令を前提にしていますよね。そう考えると職権を使うこととパワハラとの関係がよく分からないのですが。
大熊社労士:
 おっしゃられるように、上司と部下との関係は、指揮命令を前提とした関係にあるため、パワハラとの境界は曖昧なものとならざるを得ません。例えば、部下の失敗に対して叱責すること自体は本来、問題ないはずです。
服部社長:
 しかし、叱責を受けた部下が、パワハラだと受け取ってしまうこともありますよね。それはどのように考えたらよいでしょう?
大熊社労士:
 部下に対して叱責する必要があっても、部下の人格や尊厳を傷つけてもよいということにはなりませんし、そのようなことまで上司に許されてはいません。
服部社長:
 具体的な例としては、必要以上に大声で怒鳴り散らすなど程度が過ぎる場合は、パワハラにあたるということでしょうか?
大熊社労士大熊社労士:
 パワハラに該当するか否かの考え方ですが、まず上司の指導や注意、叱責などの行為が、「職務と関係あるものか、あるいは業務上必要なものか」によって判断します。職務に関係ない、あるいは業務上必要ない行為であればパワハラに該当する可能性があります。次に、職務に関係があり、あるいは業務上の必要性がある場合であっても、その行為が「職務や業務上一般的に必要とされる範囲を逸脱しているか」について判断します。適度な指導や注意、叱責なら問題ありませんが、必要以上に大声で怒鳴り散らすなど度が過ぎる行為であればパワハラに該当する可能性があるでしょう。
宮田部長:
 私は若いとき、厳しい上司から毎日のようにひどく怒鳴られましたが、最近の若い社員の中には家庭でさえも叱られたことがない者もいるようです。時代のギャップを強く感じますが、注意や叱責を受ける社員の受け取り方、感じ方によってもパワハラのとらえ方が違うでしょうから難しくなりました。
大熊社労士:
 そうですね、ある程度、常識的な判断によらざるを得ませんが、先ほど説明した2点を念頭において対応してください。注意や叱責以外にも、身体や容姿の特徴を用いて人格を否定するような発言をしたり、仕事の失敗や実績の低さを執拗に追及する、または勤務外の時間に無理矢理飲み会等につき合わせることなどもパワハラにあたる可能性がありますので、注意が必要です。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。前回に引き続き、パワー・ハラスメント(パワハラ)について取り上げてみました。パワハラが業務に関連して行われた場合、パワハラの行為者が企業の従業員であるときには、企業は同人が行った不法行為の責任を負わなければなりません。これは使用者責任といわれ、使用者が不法行為防止のために必要な監督責任を尽くしている場合には免責されるのですが、監督責任を尽くしたという立証が非常に困難なため、事実上使用者責任を免れることができないといわれています。また、パワハラを受けた被害者が、企業従業員であるときには、企業は同人に対する労働契約上の債務不履行責任を負う場合があります。これは、従業員に対し、健康的で、安全で、かつ働きやすい職場環境を提供、維持する義務、いわゆる職場環境配慮義務を負うとされ、これに違反したときには債務不履行責任が認められることがあります。企業においては、この両方の視点から、パワハラ防止に向けて対策を講じる必要があります。


 ハラスメント問題に関しては、名南経営の社会保険労務士 鷹取敏昭が8月26日に「パワハラ・セクハラ その現状と企業に求められる実務対策」セミナーを開催します(豊田市)。是非ご参加ください。
https://www.meinan.net/seminar/20080826rout.html



関連blog記事
2008年8月4日「同僚の前でひどく怒鳴ってしまった、これはパワハラになるのでしょうか?」
https://roumu.com/archives/64948552.html
2007年12月19日「多くの職場で見られる「いじめ」の実態」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51200561.html
2007年10月14日「組織を悩ますコミュニケーション下手の増加」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51113496.html
2007年05月04日「7割以上の社員が管理職へのパワハラ研修の実施を要望」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/50959952.html
2005年05月21日「労働相談内容に関する東京都産業労働局の調査結果とパワハラの増加」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/22468148.html


参考リンク
社団法人産業カウンセラー協会「産業カウンセラー440 人が見る職場/悲惨さ増す「職場のいじめ」の実態」
http://www.counselor.or.jp/pdfs/071212.pdf


(鷹取敏昭)


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