部下を育成する魔法の言葉「ありがとう」

 年末の部下面談が終わった服部印刷では、宮田部長が部下面談によって見つかった新たな課題について大熊社労士に相談していた。



宮田部長宮田部長:
 先日、ようやく部下の面談が終わりました。先生に教えてもらった質問の仕方や傾聴を前もって管理職に教えておいたところ、うまく活用できた者も多かったようで、よい面談ができたという話をいくつも聞きましたよ。
大熊社労士:
 それはよかったです。こういったコミュニケーションは、理屈を理解するのはそれほど難しいことではないのですが、それを常に実践できるようになるまでは、相当長い時間がかかります。面談の前に毎年定期的にロールプレイの研修を実施する企業もあるくらいですよ。
宮田部長:
 なるほど。確かに一朝一夕で身に付けられるようなものではなさそうですね。是非次回の面談の前にはそのような研修の機会を設けたいと思っています。そのときは是非、講師をよろしくお願いします。
大熊社労士:
 わかりました。是非行っていきましょう。
宮田部長:
 よろしくお願いします。そういえば今回の面談に際して、管理職と面談を行ったのですが、改めて部下育成について悩んでいる者が多くいるということに気付かされました。部下の育成について上司は何をすべきなのでしょうか?
大熊社労士:
 部下育成については、多くの企業や管理職の悩みの種であり、企業にとっては永遠の課題ではないかとと思います。人材育成には、心理学、経営学、コミュニケーション理論など様々な分野の広範な知識が必要で、それをそれぞれの企業風土、上司と部下の関係性に合わせて活用していくことが必要ですが、まずは私の経験上どのような上司と部下の関係でも最低限実施して欲しい2つのポイントがありますので、今日はそれをお伝えしましょう。
宮田部長:
 はい。管理職にアドバイスをして、すぐに実施できるようなものがありがたいですが…。
大熊社労士:
 ええ(笑)本当にシンプルなことですよ。私が上司と部下の関係を見るときに一番最初に見るのは、上司が部下に「ありがとう」と言っているかどうかです。
宮田部長:
 「ありがとう」と言っているか、ですか?
大熊社労士大熊社労士:
 ええ。部下にとって上司の「ありがとう」はとても安心できる言葉です。人間は自分が役に立っていることを認識することによって、モチベーションを保つことができます。部下は、自分の仕事が役に立っているかとても不安なものです。たとえば、頼んでいた資料を出してもらったら「ありがとう」、出張のチケットの手配をしてくれたら「ありがとう」と上司が一言いうだけでも、部下は自分が役にたっていると認識することができるものです。
宮田部長:
 なるほど、たしかに私も夕食後に妻に「おいしかったよ」と伝えると、翌日の夕食は2品ほどおかずが多いような気がします(笑)。
大熊社労士:
 ええ、宮田部長のおのろけはこれくらいで十分ですが(笑)、基本的にはそれも同じ理屈です。奥さんがおいしい料理を作られた事実を、宮田部長が認めた。奥さんの承認欲求を満たすことでそのモチベーションが上がったということなんですね。
宮田部長:
 なるほど、「ありがとう」というだけで部下が翌日の仕事を頑張ってくれるのなら、どんどん上司には「ありがとう」をいってもらうべきですね。
大熊社労士:
 ええ、私も新人のころは上司の「ありがとう」がうれしかったものです。なかなか役に立っていることを感じられなくて不安だったときの上司の「ありがとう」の一言には救われましたね。
宮田部長:
 へえ~、大熊先生にもそんな時代があったんですね。
大熊社労士:
 もちろんですよ(笑)。いまも私はスタッフに「ありがとう」を欠かさないようにしていますよ。褒めることが苦手な上司、褒める部分がなかなかない部下という組み合わせであっても、「ありがとう」を言う場面は絶対あるはずですからね。
宮田部長:
 なるほど、「ありがとう」の一言が、部下のやる気を引き出すんですね。とてもシンプルなことですが、効果がありそうですね。
大熊社労士:
 ええ、是非すぐにでもやってみてください。もう一つのポイントについてはまた来週お伝えしますね。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス 
こんにちは、大熊です。今回は上司が部下に「ありがとう」と伝えるというとてもシンプルな方法を紹介しましたが、実はこれはハーズバーグの「動機づけ・衛生理論」に基づいた極めて効果的な「動機づけ」手段といえます。ハーズバーグは人間の欲求には、仕事への不満につながる欲求と仕事への満足につながる欲求の二つがあることを発見しました。仕事への不満につながる欲求を「衛生要因」といい、例えば作業環境が満たされないことは不満に繋がるが、それがいくら改善されたとしてもそれは不満をなくすことはできても仕事への動機づけには繋がらないとしました。一方、仕事への動機に繋がる欲求を「動機づけ要因」といい、例えば、達成感や他人から認められることは、それが満たされることによって、仕事への動機づけを高めることができるとしました。どのような行動が人を「動機づけ」ることができるかを理解し、シンプルに実践することが大切です。



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2010年12月13日「年末の部下面談での上手な「聴き方」について教えてください」
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2010年11月29日「年末の部下面談での上手な質問の仕方を教えてください」
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(中島敏雄)


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