昇格のルールを明確にしたいのです
服部印刷では、来春に向け、人事制度の一部見直しを行っていた。
大熊社労士:
おはようございます!
服部社長:
大熊さん、おはようございます。なんだか急に寒くなりましたね。この週末はゆっくりできましたか?
大熊社労士:
ありがとうございます。土曜日は出身大学の社労士のOB会があったので、参加してきました。学生時代にいつも行っていた学生街の定食屋でカツカレーを食べたのですが、懐かしかったですよ。懇親会の最後にはみんなで校歌も歌いましたが、忘れないものですよね。もうDNAレベルに書き込まれているのではないかという感じです。
服部社長:
そうでしたか。やはり母校はいいですよね。実は私もたまに顔を出すようにしていますよ。20歳前後の頃に描いていたような人生が送れているかなと確認し、その頃の想いを思い出すというのも重要かなと思っていまして。
宮田部長:
へーっ、社長のそんな話は初めてお聞きしましたよ。
服部社長:
確かに、そうかも知れないね。今度の週末、私も学校を覗いてみようかな。さてさて、今日は昇格の仕組みについてご相談しようと考えていました。
大熊社労士:
そうでしたか。確か人事制度の見直しを行われていたのですよね?
服部社長:
はい、そうなのです。人事制度の見直しといっても、今回は等級制度や賃金制度までは変更するつもりはなく、昇格の見える化をまずは行おうと思っています。
大熊社労士:
なるほど。要は昇格のプロセスを可視化し、どうすれば昇格できるのかを見せると同時に、人材育成とモティベーションアップに繋げようといった感じでしょうか?
服部社長:
はい、完璧です(笑)。現在の昇格は社員からすると完全にブラックボックスになっていますから、社員は不安だと思うのです。またどうすれば昇格するのかも見えないわけですから、頑張るべきポイントもわからない。これではいけないと思いまして。
大熊社労士:
確かにそうですね。それでは昇格制度の設計についてお話しします。通常、昇格制度を設計する場合は(1)昇格エントリー条件と(2)昇格審査方法について検討します。
福島さん:
つまり、昇格の対象となるための条件の設定と、昇格候補者を審査し、昇格の可否を決定するための仕組みということですね。
大熊社労士:
はい、そのとおりです。まず(1)昇格エントリー条件ですが、通常は以下のような条件を設定します。
過去〇年間の人事評価結果がすべて標準以上であること
過去1年間に減給以上の懲戒処分を受けていないこと
昇格に必要な研修を修了している、または資格等を取得していること
上位等級で求められる要件の充足が期待できると直属上長が判断し、昇格の推薦を得ていること
服部社長:
なるほど。それぞれをもう少し解説いただけませんか?
大熊社労士:
わかりました。まずですが、人事評価が続けて標準以上であるということは現在の等級で期待されることが安定的にできているということになります。これが欠けているようでは当然、昇格の対象にはできません。なお、場合によっては「直近の人事評価はA以上」など、もう少し厳しい基準を設けることもあります。
服部社長:
なるほど。この基準は一般社員の場合は標準のB以上、管理職昇格から上はA以上など差を設けてもよいかも知れませんね。
大熊社労士:
そうですね。それはよいアイデアかと思います。次にですが、さすがに懲戒処分を受けたばかりの社員を昇格させることはできないだろうという考えから設けています。もっとも企業によっては積極的にけん責処分を行うようなケースもありますので、昇格の対象外とする懲戒処分の段階は調整するとよいでしょう。よほどのことがない限り、けん責処分も行わないという企業であれば、けん責でも昇格対象外としてもよいかも知れません。
宮田部長:
当社の場合は、信賞必罰を明確にしたいという考えから、けん責処分を出すことがままありますし、上司の管理責任ということで上司にもけん責処分を行うことがありますので、昇格の対象外とするのは減給以上でよいかなと思います。
大熊社労士:
ありがとうございます。については、そのような必須研修や資格がある場合ということになります。昇格を活用し、人材育成を行い、また昇格後の円滑な業務遂行を考えるのであれば、このタイミングで必要な研修等を修了させておきたいところです。例えば、管理職になるのに試算表の意味が分からないであるとか、36協定がなにかも知らないというのでは困ると思うのです。
宮田部長:
はい、まったくその通りですね。現状ではトホホという管理職もいるのが実態でお恥ずかしい…。
服部社長:
そうだな。当社の場合、かつてはそういった管理職向けの研修をあまり行っていなかったから、ベテラン管理職の中にはそういった者がいるというのは否めないな。昇格のタイミングで財務や労務に関する基本的な通信教育の修了を要件にしてもよいかも知れない。
大熊社労士:
そうですね。ただ公的資格の取得を条件にしてしまうと、実務はできても、資格が取れないという社員の昇格が過度に抑制されてしまう危険性もありますので、そのあたりはご注意ください。
服部社長:
分かりました。
大熊社労士:
そしてですが、現在の等級で期待されていたとしても、上位の等級ではなかなか難しいというケースがあり得ます。特に管理職になるタイミングで問題が起きやすいかと思いますが、プレイヤーとしては優秀でも、マネジメントにはまったく向いていないといったケースです。そのような場合には、やはり昇格の対象とすることは難しいでしょう。このあたりについては上長に判断させ、推薦というルールでコントロールする必要があります。
服部社長:
それは必要ですね。もっともそういった社員でも活躍できるような別のコースを人事制度としては用意してやらないといけないかも知れませんね。
大熊社労士:
はい、私もまったく同意見です。こんな形でまずは昇格のエントリー条件を設定し、社員に公表することが求められます。その結果、上司との間でも昇格に向けた目標設定などが行われ、昇格制度が見えるようになっていくかと思います。それでは、今日はここまでとし、次回、昇格審査方法についてお話ししたいと思います。
服部社長:
そうですね。分かりました。次回もよろしくお願いします。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。今回は昇格制度の中でも、まずは昇格審査を行う対象者の選定ルールについて解説しました。特に中小企業の昇格は、選抜型の人事を行う大企業と異なり、少ない人材の中で、その人材を育成し、いい形で昇格させるという点に重点を置いた昇格制度とすることが必要です。言わば「社員成長型昇格制度」を用意することがポイントとなります。昇格制度を明確にすることにより、社員の目標設定を支援し、その成長を促進しましょう。
(大津章敬)
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