海外出張における新型コロナウイルス感染と労災認定
新型コロナウイルス感染症(以下、「コロナ」という)の全世界的な感染拡大により、不要不急の海外出張業務は自粛されていることかと思います。しかしながら、コロナの感染拡大が始まってから数ヶ月となってきたため、中には、海外取引先や海外親会社からの要請により、14日間の隔離措置なども覚悟の上、やむをえず海外出張をせざるえないという話もちらほら聴こえてきます。
そのような海外出張の実施がやむをえない状況下において、一つ認識しておいていただきたいのが、労災認定の取扱いです。
通常、感染症の罹患による労災認定については、感染経路の特定が困難であるため、労災認定されることが極めて珍しいものであります。そのため、感染症であるコロナに感染したとしても労災の給付はない、と決めつけてしまいがちですが、本件については、厚生労働省労働基準局補償課長から発出された「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて(基補発0428第1号・令和2年4月28日)」において、次のように言及がされています。
まず、コロナについては、「調査により感染経路が特定されなくとも、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められる場合には、これに該当するものとして、労災保険給付の対象とすること。」とされており、労災認定される可能性がないわけではないことがわかります。そして、海外出張者については、以下のように言及されています。
ア 海外出張労働者
海外出張労働者については、出張先国が多数の本感染症の発生国であるとして、明らかに高い感染リスクを有すると客観的に認められる場合には、出張業務に内在する危険が具現化したものか否かを、個々の事案に即して判断すること。
実際に、厚生労働省が公開した「新型コロナウイルス感染症に関する労災請求件数等(令和2年7月30日18時現在)」によると、まだ件数は少ないですが、海外出張者のコロナ感染による労災申請は7件あり、うち5件が労災認定されているという実績があります。
万が一、海外出張者がコロナ感染した場合、軽症で比較的短期間の療養ですめば、企業による補償等によって、労災申請までしようと考えられることは少ないかもしれませんが、重症化し、呼吸器系の障害や、最悪の場合は死亡に至ったときには、労災申請を行い、労災保険から障害や遺族に関する給付が受けられる可能性があるということを認識しておかれるとよいでしょう。
<参考リンク>
厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて」
https://www.mhlw.go.jp/content/000626126.pdf
厚生労働省「新型コロナウイルス感染症に関する労災請求件数等」
https://www.mhlw.go.jp/content/000627234.pdf
厚生労働省「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る労災認定事例」
https://www.mhlw.go.jp/content/000647877.pdf