厚生労働省「これからのテレワークでの働き方に関する検討会」報告書における労働時間管理のポイント

 2020年は新型コロナの影響で、テレワークが一気に普及した年として記憶されることでしょう。新型コロナの感染拡大が未だ収束していないことを考えれば、テレワークは、ウィズコロナ・ポストコロナの時代において引き続き働き方の大きな選択肢となります。

 そんな中、厚生労働省の「これからのテレワークでの働き方に関する検討会」の報告書が公開されました。この中では以下のような事項が取り上げられていますが、本日は中でも注目の労働時間管理の在り方に関する記述について確認しておきましょう。

  1. テレワークの対象者を選定する際の課題
  2. テレワークの実施に際しての労務管理上の課題(人事評価、費用負担、人材育成)
  3. テレワークの場合における労働時間管理の在り方
  4. テレワークの際の作業環境や健康状況の管理・把握、メンタルヘルス

 テレワークの場合における労働時間管理の在り方についての記述は以下のようになっています。

  • テレワークは、働く場所や時間を柔軟に活用することが可能であり、業務を効率的に行える側面がある一方、集中して作業に従事した結果、長時間労働になる可能性があり、過度な長時間労働にならないように留意することが重要である。また、労働者が労働時間を過少申告することがないよう、健康管理の観点からも、使用者は労働時間を適切に把握することが必要である。
  • 一方で、例えば、使用者が個々の労働者の仕事の遂行状況を常時把握・管理するような方法は、あまり現実的ではない場合もあり、またテレワークのメリットを失うことになりかねないという点についても留意が必要である。長時間労働にならないようにしつつ、労働時間の管理方法について労使で話し合ってルールとして定めておくことも重要である。
  • テレワークの場合における労働時間管理について、労使双方にとって負担感のない、簡便な方法で把握・管理できるようにする観点から、成長戦略会議の実行計画(令和2年12月1日)において指摘されているように、自己申告された労働時間が実際の労働時間と異なることを客観的な事実により使用者が認識している場合を除き、労働基準法との関係で、使用者は責任を問われないことを明確化する方向で検討を進めることが適当である。
  • また、テレワークを自宅で行う際には生活の場所で仕事を行うという性質上、中抜けが生ずることも想定される。このことから、取扱いについて混乱が生じないよう、中抜け時間があったとしても、労働時間について、少なくとも始業時間と終業時間を適正に把握・管理すれば、労働基準法の規制との関係で、問題はないことを確認しておくことが適当である。
  • 企業がテレワークを積極的に導入するよう、テレワークガイドラインにおいては、テレワークの特性に適した労働時間管理として、フレックスタイム制、事業場外みなし労働時間制がテレワークになじみやすい制度であることを示すことが重要である。
  • 事業場外みなし労働時間制については、制度を利用する企業や労働者にとって、その適用の要件がわかりやすいものとなるよう、具体的な考え方をテレワークガイドラインにおいて明確化する必要がある。
  • 規制改革実施計画(令和元年6月21日閣議決定)において指摘されているように、現行のテレワークガイドラインには所定労働時間内の労働を深夜に行うことまで原則禁止としているという誤解を与えかねない表現がある。「原則禁止」との誤解を与えないようにしつつ、長時間労働対策の観点も踏まえてどのようにテレワークガイドラインに記載するかについては、労働者において深夜労働等を会社に原則禁止としてほしいという一定のニーズがあることも踏まえながら、工夫を行う必要がある。その一方で、たとえ個人が深夜労働を選択できたとしても、他者は業務時間ではない場合もあることに配慮し、プライベートを侵害しないようにすること
    も重要である。
  • フランスでは、労使交渉において、いわゆる「つながらない権利」を労働者が行使する方法を交渉することとする立法が2016年になされ、「つながらない権利」を定める協定の締結が進んでいる。テレワークは働く時間や場所を有効に活用でき、育児等がしやすい利点がある反面、生活と仕事の時間の区別が難しいという特性がある。このため、労働者が「この時間はつながらない」と希望し、企業もそのような希望を尊重しつつ、時間外・休日・深夜の業務連絡の在り方について労使で話し合い、使用者はメールを送付する時間等について一定のルールを設けることも有効である。例えば、始業と終業の時間を明示することで、連絡しない時間を作ることや、時間外の業務連絡に対する返信は次の日でよいとする等の手法をとることがありうる。労使で話し合い、使用者は過度な長時間労働にならないよう仕事と生活の調和を図りながら、仕事の場と私生活の場が混在していることを前提とした仕組みを構築することが必要である。
  • このほか、勤務間インターバル制度は、テレワークにおいても長時間労働を抑制するための手段の一つとして考えられ、この制度を利用するアプローチもある。

 アンダーラインを引いた箇所が実務的に特に重要と思われますが、自己申告による労働時間の把握において、アクセスログなどの客観的なデータがどのように評価されるのかなど、より詳細が待たれます。また事業場外みなし労働時間制の適用の推進といった方向性も見られ、より柔軟な働き方を進める国としての考えが伺われます。

 なお、厚生労働省では、本報告書を踏まえ、今後、「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」の改定を行う予定となっております。新ガイドラインの内容にも注目しましょう。


参考リンク
厚生労働省「「これからのテレワークでの働き方に関する検討会報告書」を公表します」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_15768.html

(大津章敬)