改正育児・介護休業法につけられた国会の附帯決議

 2021年6月3日の記事「国会で成立!男性育休取得促進が盛り込まれた改正育児・介護休業法案」で速報としてお知らせしたように、改正育児・介護休業法が今国会で成立しました。これに伴い、2022年4月からは男性の育休取得の促進がさらに加速すると思われますが、この改正法案には衆議院・参議院から以下の24の付帯決議がつけられています。


育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律案に対する附帯決議

1.男性の育児休業の取得促進については、それが男性の育児・家事参加の機会確保と男女共同参画への意識改革につながることに加え、出産・育児においては、男性も女性も一定期間、職場から離れて育児に専念するということを社会通念上も雇用慣行上も当然のものとして定着させることで、雇用・職業における女性への差別的取扱いはあってはならないし、許されないものであるとの認識の下、これを是正・解消し、真に男女が共に参画できる社会を構築することに寄与する観点で、今後も引き続き前進させるための努力を行うこと。

2.男性の育児休業取得率を令和7年において30パーセントに引き上げるという政府目標の実現に向けて、労働者及び事業主の理解の促進、育児休業制度の内容の周知、好事例の普及などに努めること。また、制度内容の周知に当たっては、本法による改正で複雑化した制度が国民によく理解され、もって育児休業の取得が促進されるよう、適切な広報に努めること。

3.今回の出生時育児休業は、一定の範囲で特別な枠組みを設けることにより、男性の育児休業取得を促進するための特別な措置であり、男性の育児休業取得がより高い水準になり、この仕組みがなくてもその水準を保つことができるようになった場合には見直すこと。

4.今回の制度改正の施行に当たっては、企業の理解を得た上で実施していくことが必要となることから、全ての労働者が育児休業の権利を行使できるよう、小規模事業者であっても活用できるような形で代替要員確保や雇用環境の整備等の措置に対して支援を行うなど、事業主の負担に配慮した制度運営を行うこと。

5.事業主はその雇用する労働者に対して出生時育児休業の申出期限を適切に周知するとともに、その申出期限にかかわらず事業主及び労働者双方が早期の休業申出に向けて互いに配慮することが望ましい旨を指針に明記すること。

6.育児休業は労働者の権利であって、その期間の労務提供義務を消滅させる制度であることから、育児休業中は就業しないことが原則であり、事業主から労働者に対して就業可能日等の申出を一方的に求めることや、労働者の意に反するような取扱いがなされることのないよう指針に明記するとともに、違反が明らかになった場合には事業主に対して厳正な対処を行うこと。

7.出生時育児休業中の就業は、あくまで労働者からの申出が前提となっていることから、それを可能とする労使協定の締結についても、使用者側からの一方的な押しつけにならないよう、労働者側の意向を反映する適正な手続を明らかにし、周知を徹底すること。

8.育児休業中の社会保険料免除要件の見直しに関し、労働者が育児休業中に就業した場合には、休業中の就業日数によっては社会保険料の免除が認められなくなり、労働者に想定外の経済的な負担が発生する可能性があることについて周知徹底すること。

9.選択肢の中からいずれかの措置を講じなければならないとされている雇用環境の整備については、可能な限り、複数の措置を行うことが望ましいことについて、事業主の理解を得るよう努めること。また、研修については、労働者のみでなく、事業主に対しても行われるような方策を検討し、労働者が安心して希望する期間の育児休業を取得することのできる職場風土の醸成を図ること。

10.育児休業等の制度への理解不足により、労働者の権利行使が妨げられることのないよう、事業主が妊娠・出産の申出をした労働者に対して、育児休業制度のみでなく、休業の申出先や休業中の所得保障などについても知らせることとするなど、育児休業の取得に対して実効ある措置を講ずること。

11.育児休業の取得意向の確認等において、労働者に対し取得を控えさせるような取扱いが行われないよう運用を徹底するとともに、違反が明らかになった場合には事業主に対して厳正な対処を行うこと。

12.常時雇用する労働者が1,000人を超える事業主に義務付ける育児休業の取得状況の公表に際しては、育児休業取得期間についても、その公表の促進を図る方策について検討すること。

13.上場企業等については、有価証券報告書などの企業公表文書等への育児休業取得率の記載を促すこと。

14.雇用均等基本調査における育児休業取得期間の調査及び公表については、取得状況を的確に把握し、もって今後の育児休業制度の在り方の検討に資するため、その頻度及び調査項目について必要な見直しを行うこと。

15.有期雇用労働者の育児休業及び介護休業の取得要件の緩和について、労使双方の理解不足等により対象となる有期雇用労働者の権利行使が妨げられることのないよう、その趣旨を周知徹底すること。また、雇用の継続のために育児休業及び介護休業の取得を希望する有期雇用労働者が確実に取得できるよう、引き続き更なる環境整備に努めるとともに、今回の改正後の施行状況について検証を行い、必要な検討を行うこと。加えて、臨床研修医や専門医を目指す医師など、勤務先を短期間で移らざるを得ない者が育児休業を取得しやすくなるよう必要な方策を検討すること。

16.派遣労働者については、派遣契約の違いによる育児休業及び介護休業の取得状況の実態把握を行い、取得促進に向けた運用の改善と具体的な促進策を検討すること。

17.新型コロナウイルス感染症による雇用保険財政への影響を踏まえ、財政運営の安定確保策について早急に検討するとともに、雇用保険の国庫負担については雇用政策に対する政府の責任を示すものであることから、雇用保険法附則第15条の規定に基づき、安定した財源を確保した上で同法附則第13条に規定する国庫負担に関する暫定措置を廃止すること。

18.本法附則の規定に基づく検討においては、出生時育児休業等の取得期間、出生時育児休業中の就業、育児休業の分割取得、有期雇用労働者の育児休業等の取得の状況等について詳細な調査を行うとともに、その結果を広く公表すること。

19.女性の就業継続を促進するためには男性の育児・家事への参画を促す必要があることから、自治体が実施する両親学級、父親学級等については、より男性が参加しやすく、産後の育児・家事について学ぶものとなるよう、必要な支援を行うこと。

20.育児休業取得促進に向けた事業主の積極的な取組を推進するため、両立支援等助成金の更なる拡充など、効果的なインセンティブの在り方について検討すること。

21.同性カップルに対する育児休業、介護休業等の適用について、関連制度における取扱いも踏まえつつ、必要な対応の検討を行うこと。

22.妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの防止に向けて、事業主に対して雇用管理上の措置の徹底を図るとともに、制度を利用していない労働者に対するパワーハラスメント対策についても徹底を図ること。

23.働きながら安心して育児が行えるようにするという観点から、ひとり親世帯など、子育て世帯の多様化も踏まえつつ、本法附則の規定に基づく検討を行うこと。

24.育児休業は子の養育のための休業であることから、子の養育という目的を果たせないような形で育児休業中に請負で働くことは育児休業の趣旨にそぐわないものであることについて、適切に周知すること。


 今回の改正で育児休業はさらに複雑な制度になっており、さらにこれまでの育児休業の前提とは異なる育児休業中の就労を一部認める法律になっていることもあり、多くの附帯決議がつけられる結果となりました。

 今後、厚生労働省からさまざまな周知がなされると思いますが、それを踏まえ、従業員にわかりやすく周知することが求められます。


参考リンク
衆議院「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律案に対する附帯決議」
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_rchome.nsf/html/rchome/Futai/kourouD05547DD85030EAF492586E9001CE5A8.htm
(宮武貴美)