男性版産休(出生時育児休業)とはどういうものですか?
服部印刷に訪問すると、さっそく宮田部長が大熊に話しかけてきた。
宮田部長
大熊先生、おはようございます。さっそくですが、私からお聞きしてもよいでしょうか。少し前に「男性版産休」ということばをインターネットで見たのですが、男性は出産しないのに「産休」っておかしくないですか?これってもうすぐ始まるのですよね?
大熊社労士
なるほど、改正育児・介護休業法の記事をご覧になったのですね。2021年の通常国会はまもなく閉会になる予定ですが、この国会では人事労務に関する2つの大きな法案が提出されていました。1つが改正育児・介護休業法案(※1)で、もう1つが改正健康保険法案(※2)です。
※1 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律案
※2 全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案
服部社長
ずいぶんと長い法案の名称ですね。
大熊社労士
はい、最近の傾向である、いくつかの改正を一つの法案としてまとめて審議をするいわゆる「一括法案」になっています。改正育児・介護休業法案では、育児・介護休業法のほか、雇用保険法も改正法案として盛り込まれていました。今回のいわゆる男性版産休は、この改正育児・介護休業法案に盛り込まれているもので、成立したものです。
福島さん
産休なので、子どもが生まれる前の6週間と、生まれた後8週間にお休みを取れるってことですか?
大熊社労士
そのようなイメージになるかもしれませが、実際は産後の期間に育児休業が取れるというものです。具体的には子どもの出生後8週間以内に4週間までとることができる育児休業のことを指します。
福島さん
大熊先生、それであれば今のパパ休暇と変わらないように感じるのですが、違う点があるのでしょうか?
大熊社労士
確かにパパ休暇は子どもが生まれた後8週間以内に取る育児休業のことですが、パパ休暇は1歳までの育児休業の中にある一つの例外のようなものであり、その休暇を取ったとしても再度、育児休業を取ることができるというものです。つまり、通常の育児休業と仕組みは変わらないようなものです。
服部社長
なるほど。ということは男性版産休は大きく違うということですね。
大熊社労士
はい、私はそう感じています。法律上は「出生時育児休業」という名称になっており、通常の育児休業とは分けて扱われます。ポイントを列記すると以下の通りです。
1.子どもの出生後8週間以内に4週間まで取得できる
2.申出期限は原則休業の2週間前まで
3.2回に分割して取得できる
4.一定の条件のもと、育児休業中に就業できる
福島さん
え!?育児休業中なのに働くことができるのですか?
大熊社労士
そうです。もちろん、従業員同意の上、就業できる時間数も制限が設けられることになる予定ですが、休業といいつつ、労働できるというのは大きな変更ですね。
宮田部長
確かに、完全に業務から離れてしまうと育児休業を取る従業員としても、取り残されてしまうのではないかとか、いろいろなことを考えると思いますし、最低限これだけは自分の担当として責任をもってやりたいということもあるかと思います。
大熊社労士
そうですね。この出生時育児休業の細かなことは今後決まることになっており、施行は「公布日から1年6か月を超えない範囲内で政令で定める日」となっています。まだ先の話になるかと思いますが施行されるときには、育児・介護休業規程や労使協定の締結等が必要になってくるかと思いますので、頭の片隅にはおいておくことにしましょう。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。今回の改正育児・介護休業法では、男性版産休のほかにも、広い範囲にわたり細かな改正が行われています。次回以降もその改正内容を確認していきましょう。
参考リンク
厚生労働省「育児・介護休業法について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html
厚生労働省「第204回国会(令和3年常会)提出法律案」
https://www.mhlw.go.jp/stf/topics/bukyoku/soumu/houritu/204.html
(宮武貴美)