同一労働同一賃金の対策としては人事評価制度の明確化が重要です
まもなくお盆。1年が経つのは早いものだと実感する大熊であった。
大熊社労士
おはようございます!
服部社長
大熊さん、おはようございます。今日も暑いですなぁ。最近は暑すぎて、ウォーキングもできず、少し運動不足ですよ。
大熊社労士
本当にそうですね。もっとも来週にはお盆ですから、そろそろ秋の虫の声も聞こえてきますね。さて、今日は同一労働同一賃金に関するご相談があるとか。
福島さん
はい、そうなのです。当社でも正社員と非正規社員の処遇に問題はないかと検証しているのですが、通勤手当がどうだとか、家族手当がどうということも大事なのですが、それだけではダメですね。本質的には正社員と非正規社員の仕事の内容や責任の範囲を明確にすることが必要だなと改めて感じています。
大熊社労士
福島さん、そうなんですよ。まったくもってその通りだと思います。最高裁の判断もありますので、短期的には通勤手当などの不合理な差異の是正が必要になると思いますが、それだけでは不十分です。そもそもは同じような仕事や責任を求めているのに正規・非正規という雇用区分の違いにより、不合理な処遇差があることが問題とされている訳です。仕事の内容や責任の程度に差があるのであれば、一定の処遇差があることは当然のことなのですが、多くの企業ではその仕事の内容や責任の差が明確になっていないから問題になる訳です。
福島さん
そうだと思います。ですから、当社ではそのあたりのことを明確していかなければならないと考えていますが、具体的にどのようにすればよいのか迷っていて、今日、相談できればと思っていたのです。
大熊社労士
なるほど、そういうことですね。その解決は人事制度の明確化にあります。より具体的に言えば、人事評価制度ですね。
福島さん
人事評価制度ですか?
大熊社労士
はい。人事評価制度って一言で言えば、社員に対する期待を示すものだと思うのですよ。こんな仕事をして欲しいであるとか、こんな役割を、こんなレベルで担って欲しい。あなたの責任はここまであるから、その責任を果たして欲しいというようなことを明確にすること。これが人事評価制度の根幹であって、SABCDなんていう評語はおまけのようなものだと思うのです。だって、全員が同じように期待レベルを達成するのであれば、評語なんて必要ないじゃないですか。全員A評価なり、B評価でいいのだから。でも現実には、役割を全うする人と、そうでない人というように差があるので、その差を評価し、差をつける必要が出て来るということですよね。
服部社長
そうですよね。一番望ましいのは、全員が期待される役割を果たすなどして、全員が同じく活躍してくれることです。現実的には難しいのでしょうけど、評価の差なんて出ないのが理想ですね。そのためには各社員への期待を明確に示さないと始まりませんね。
大熊社労士
そう思います。今回の同一労働同一賃金の対応で言えば、正社員と非正規社員に求めていることって現実的に異なるはずなんですよ。4要素で言えば、「業務の内容」も違うと思いますが、「当該業務に伴う責任の程度」はより違うはずなのです。飲食店を例にあげれば、正社員には店舗の業績達成を求めるのに対して、非正規従業員にはそこまで求めず、それよりもお客様に快適に過ごして頂くためのホスピタリティの徹底を求めたりする訳です。それ以外にも様々な役割期待の差があると思いますが、それを表現する場が人事評価制度だと思うのです。例えば、正社員については店舗業績の達成状況を賞与評価の基準に入れるのに対し、非正規従業員にはそれは求めず、顧客対応チェックリストやそれに基づく多面評価などを行うことが考えられますね。
宮田部長
言われてみればそうですね。当社の工場でも期待事項の差がありますね。例えば、非正規従業員のみなさんには生産性向上のための提案までは求めておらず、どちらかといえば決められた手順を遵守し、確実に遂行することを求めています。もちろん提案をするなという意味ではありませんが、正社員には常に「よりよい方法を考えろ」と伝えていることを考えれば、責任の程度は異なります。
福島さん
確かにそうですね。同一労働同一賃金の対策のために、それぞれの従業員の役割や責任を明確にすることも必要ですが、その取り組みというのは、人事評価制度の納得性の向上や業務の質の改善にも繋げられそうですね。
大熊社労士
そういうことなんだと思います。人事評価制度というとなにか非常に専門的なことのように思われますが、その基本は、会社としての期待を明確にするという当たり前のことであると考えています。是非取り組んでみてくださいね。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。同一労働同一賃金への対応は、短期的に対応が必要な事項と、中長期的に対応が求められる本質的な事項に分けて考えることが重要です。今回はそのうち、後者について取り上げました。同一労働同一賃金にかかる法改正の前提となっている労働条件分科会同一労働同一賃金部会の「同一労働同一賃金に関する法整備について(報告)平成29年6月9日」を見ると以下の記載がされています。
「賃金等の待遇は、労使によって決定されることが基本である。しかしながら同時に、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の是正を進めなければならない。このためには、正規雇用労働者-非正規雇用労働者両方の賃金決定基準・ルールを明確化、職務内容・能力等と賃金等の待遇の水準の関係性の明確化を図るとともに、教育訓練機会の均等・均衡を促進することにより、一人ひとりの生産性向上を図るという観点が重要である。」
つまり、同一労働同一賃金の対策の本質は人事制度の明確化であるとされているのです。いまはコロナの影響で制約を受ける部分もあろうかと思いますが、社員の意識の多様化、コロナによるビジネスモデルの変化なども発生していることから、今後、人事制度の整備が重要な課題となっていきます。
(大津章敬)