過労死認定基準の改定~確認しておきたい海外出張者に関する事項~

 2021年9月14日、厚生労働省は、「脳・心臓疾患の労災認定基準(いわゆる「過労死認定基準」)」を改正し、通達「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」及び「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準に係る運用上の留意点について」において、取扱いや具体的運用方法を示しました。

 今回の改正に関する4つのポイントは以下のとおりです。

<改正に関する4つのポイント>
(1)長期間の過重業務の評価にあたり、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合評価して労災認定することを明確化
(2)長期間の過重業務、短期間の過重業務の労働時間以外の負荷要因を見直し
(3)短期間の過重業務、異常な出来事の業務と発症との関連性が強いと判断できる場合を明確化
(4)対象疾病に「重篤な心不全」を新たに追加

厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定 基準 改正に 関する4つのポイント」
https://www.mhlw.go.jp/content/000833808.pdf

 脳・心臓疾患の労災認定において、発症前1か月におおむね100時間または発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月あたり80時間を超える時間外労働が認められる場合について業務と発症との関係が強いと評価できることを示していますが、さらに今回、上記の時間に至らなかった場合であっても、これに近い時間外労働を行った場合には「労働時間以外の負荷要因」の状況も十分に考慮し、業務と発症との関係が強いと評価できることが明確に示されました。この「労働時間以外の負荷要因」として、海外出張や海外赴任に関する事項も示されています。該当箇所は次のとおりです。

「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について(基発0914第1号・令和3年9月14日)」

(ウ) 事業場外における移動を伴う業務
a 出張の多い業務
 出張とは、一般的に事業主の指揮命令により、特定の用務を果たすために通常の勤務地を離れて用務地へ赴き、用務を果たして戻るまでの一連の過程をいう。
 出張の多い業務については、出張(特に時差のある海外出張)の頻度、出張が連続する程度、出張期間、交通手段、移動時間及び移動時間中の状況、移動距離、出張先の多様性、宿泊の有無、宿泊施設の状況、出張中における睡眠を含む休憩・休息の状況、出張中の業務内容等の観点から検討し、併せて出張による疲労の回復状況等も踏まえて評価すること。
 ここで、飛行による時差については、時差の程度(特に4時間以上の時差の程度)、時差を伴う移動の頻度、移動の方向等の観点から検討し、評価すること。
 また、出張に伴う勤務時間の不規則性についても、前記(イ)により適切に評価すること。
b その他事業場外における移動を伴う業務
 その他事業場外における移動を伴う業務については、移動(特に時差のある海外への移動)の頻度、交通手段、移動時間及び移動時間中の状況、移動距離、移動先の多様性、宿泊の有無、宿泊施設の状況、宿泊を伴う場合の睡眠を含む休憩・休息の状況、業務内容等の観点から検討し、併せて移動による疲労の回復状況等も踏まえて評価すること。
 なお、時差及び移動に伴う勤務時間の不規則性の評価については前記aと同様であること。

別表2 心理的負荷を伴う具体的出来事
具体的な出来事「16 転勤をした」
【負荷の程度を評価する視点】
・職種、職務の変化の程度、転勤の理由・経過、単身赴任の有無、海外の治安の状況等
・業務の困難性、能力・経験と業務内容のギャップ等
・その後の業務内容、業務量の程度、職場の人間関係等

「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準に係る運用上の留意点について(基補発0914第1号・令和3年9月14日)」

2 事業場外における移動を伴う業務
 旧認定基準における「出張の多い業務」について、出張を「特定の用務を果たすために通常の勤務地を離れて行うもの」と整理した上で、通常の勤務として事業場外における移動を伴う業務の負荷についても検討する必要があるとされたことから項目名が修正され、その細目として「出張の多い業務」と「その他事業場外における移動を伴う業務」が明示されたものであること。
(1) 出張の多い業務
 旧認定基準における負荷要因の検討の視点について一部改正が行われるとともに、定義が明らかにされたものであること。
 また、旧認定基準において作業環境の細目とされていた時差についても、出張に伴う負荷であることから本項目で評価することとされたものである。時差については、時間数を限定せず検討の対象とされたが、特に4時間以上の時差が負荷として重要であることに留意すること。
 なお、時差を検討するに当たっては、東への移動(1日の時間が短くなる方向の移動)は、西への移動よりも負荷が大きいとされており、検討の視点に示された「移動の方向」とはその趣旨であること。
 出張に伴う勤務時間の不規則性については、本項目ではなく、前記1の項目において併せて評価する必要があること。
(2) その他事業場外における移動を伴う業務
 長距離輸送の業務に従事する運転手や航空機の客室乗務員等、通常の勤務として事業場外における移動を伴う業務の負荷について検討する項目であり、検討の視点は、一部を除き「出張の多い業務」とおおむね同様であること。

 海外出張者については、上記の観点を踏まえ、単に労働時間の長短を見るだけでなく、出張が多い場合には、特に時差がある海外への移動などが重なり、過度な負荷がかかっていないかなどに注意、配慮をして、労務管理をされることがよいでしょう。

<参考リンク>
厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定基準を改正しました」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21017.html