新しい資本主義実現会議が示した「男女間の賃金差異の開示義務化」の概要

 内閣が進める新しい資本主義実現会議は、2022年5月31日に「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画(案)~人・技術・スタートアップへの投資の実現」を公表しました。人事労務管理の実務にも大きな影響を与える可能性がある内容が多く含まれていますので、数回に分け、そのポイントを取り上げます。

 今回の実行計画案では、新しい資本主義に向けて、(1)人への投資と分配、(2)科学技術・イノベーションへの重点的投資、(3)スタートアップの起業加速及びオープンイノベーションの推進、(4)GX及びDXへの投資を4本柱としています。この中で、(1)人への投資と分配については、まずは以下の基本的考え方が述べられています。
「モノからコトへにも象徴されるように、DX、GXといった大きな変革の波の中にあって創造性を発揮するためには、人の重要性が増しており、人への投資が不可欠となっている。また、これまで、ともすれば安価な労働力供給に依存してコストカットで生産性を高めてきた我が国も、労働力不足時代に入り、人への投資を通じた付加価値の向上が極めて重要となっている。」

 この基本的な考えに基づき、様々な取り組み方針が示されていますが、本日は、実務を担当されているみなさんの中で、早くも話題となっている「男女間の賃金差異の開示義務化」について見てみることにしましょう。


 正規・非正規雇用の日本の労働者の男女間賃金格差は、他の先進国と比較して大きい。また、日本の女性のパートタイム労働者比率は高い。男女間の賃金の差異について、以下のとおり、女性活躍推進法に基づき、開示の義務化を行う。

  • 情報開示は、連結ベースではなく、企業単体ごとに求める。ホールディングス(持株会社)も、当該企業について開示を行う。
  • 男女の賃金の差異は、全労働者について、絶対額ではなく、男性の賃金に対する女性の賃金の割合で開示を求めることとする。加えて、同様の割合を正規・非正規雇用に分けて、開示を求める。
    (注)現在の開示項目として、女性労働者の割合等について、企業の判断で、更に細かい雇用管理区分(正規雇用を更に正社員と勤務地限定社員に分ける等)で開示している場合があるが、男女の賃金の割合について、当該区分についても開示することは当然、可能とする。
  • 男女の賃金の差異の開示に際し、説明を追記したい企業のために、説明欄を設ける。
  • 対象事業主は、常時雇用する労働者301人以上の事業主とする。101人~300人の事業主については、その施行後の状況等を踏まえ、検討を行う。
  • 金融商品取引法に基づく有価証券報告書の記載事項にも、女性活躍推進法に基づく開示の記載と同様のものを開示するよう求める。
  • 本年夏に、制度(省令)改正を実施し、施行する。初回の開示は、他の情報開示項目とあわせて、本年7月の施行後に締まる事業年度の実績を開示する。

 このように301人以上の企業を対象として、この夏にも開示が求められることになりそうです。現実的には単に男女ではなく、職務の内容や契約の差異など様々な要因に基づいて賃金差異が生じていることが通常ですので、その区分の設定と合理的な説明に工夫が求められます。


参考リンク
内閣官房「新しい資本主義実現会議(第8回)令和4年5月31日(火)」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/kaigi/dai8/gijisidai.html
新しい資本主義実現会議「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画(案)」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/kaigi/dai8/shiryou1.pdf

(大津章敬)