フルフレックスタイム制による柔軟な働き方の実現について教えてください

 この週末は真夏を思わせるような熱い日が続いた。暑さが苦手な大熊にとっては辛い時季になってきた。


大熊社労士
 おはようございます!
服部社長服部社長
 大熊さん、おはようございます。それにしてもまだ6月だというのに本当に暑いですね。大熊さんも汗を拭きながらいらっしゃると思ったので、会議室はキンキンに冷やしておきましたよ。
大熊社労士
 なんと、ありがとうございます。いやぁ、涼しい。生き返ります。
福島さん
 大熊先生、これまたキンキンに冷えた麦茶です。どうぞ(笑)。
大熊社労士
 ありがとうございます。さてさて、今日は柔軟な働き方についてのご相談があるということですが。
服部社長
 そうなんです。実は当社の話ではなく、参加している経営者団体の会合で、仲の良い社長から相談を受けた話なのですが、その会社は、オンラインシステムの開発や販売を行っているベンチャー企業で、優秀な人材を確保するために柔軟な働き方を導入したいと考えているようなのです。顧問の社労士さんもいないということで、それであれば、当社の顧問である大熊さんに意見を伺ってみるよとなったという次第なのです。
大熊社労士
 なるほど。もしよろしければその社長を紹介して頂いてもよいのですが(笑)。まあ、その前提として最近の新しい流れについてお話させていただきます。最近、そのようなケースでよく検討されるのがフルフレックス+固定残業というパターンです。
宮田部長
 フルフレックス+固定残業ですか。フレックスタイム制のすごいバージョンみたいな感じなのですか?
大熊社労士
 (笑)。まあ、そんなところです。フレックスタイム制はご存じのとおり、業務等の状況に合わせて、始業・終業時刻を従業員が自ら決めて働くという仕組みです。そして、通常は労働時間管理のための期間である清算期間を1か月と定め、その所定労働時間を超えた分を残業とする仕組みです。
宮田部長宮田部長
 はい、そこまでは理解しています。あとは絶対に勤務しなければならない「コアタイム」や、働いてもよい時間帯である「フレキシブルタイム」を定めるのですよね?
大熊社労士
 一般的にはそうですよね。例えば、午前10時から午後2時までをコアタイムとしているような会社は多いです。また、深夜時間帯に勤務することを認めないとして、午前5時から午後10時までをフレキシブルタイムとしている例も一般的です。今日、ご紹介しているフルフレックスでは、こうしたコアタイムやフレキシブルタイムを設定せず、文字通り、24時間いつでも働いてよいとする極めて自由度が高いフレックスタイム制のことを言います。
服部社長
 それはすごい。ということは、例えば夕方の6時に出勤し、深夜1時まで働くなんていうことも認められるということですか。
大熊社労士
 理屈でいえばそういうことになります。その上で、企業によっては毎月20時間分などの残業代を固定的に支給する固定残業制度を組み合わせ、その時間までは残業の実施も本人の裁量に委ねるという運用を行っている例も多く見られます。
福島照美福島さん
 ということは例えば、ある月の所定労働時間が21日×8時間=168時間だとすると、それに20時間を加えた188時間の「時間予算」を本人に与え、その範囲内で従業員自らが働く時間を柔軟に決めるということですね。それって、裁量労働とは違うのですか?
大熊社労士
 福島さん、いい質問ですね。趣旨としては裁量労働に近いものになります。しかし、裁量労働は適用できる職種が限定されていたり、休日については通常、別途労働時間管理を行うことになることによる実務上の難しさがあったりします。また何時間働いたとしてもみなし労働時間働いたとみなされることから実態的に労働時間管理の甘さが出て、長時間労働の原因にもなったりします。このように裁量労働制は、意外に使いにくいところがあります。よって、最近はフレックスタイム制を活用した柔軟な働き方の実現を目指す事例が増えています。
服部社長
 なるほど。ちなみにその場合の課題としては何がありますか?
大熊社労士大熊社労士
 まずフレキシブルタイムを設けない場合の深夜労働でしょう。やはり深夜労働は心身への負担が大きいのでできれば避けたいところですが、フレキシブルタイムを設けない場合には、もっぱら深夜に働くということができてしまいます。よって、健康管理の観点から、私としては最低限のフレキシブルタイムを設定すべきと考えています。また深夜の場合、割増賃金の問題もありますので、この観点からも深夜時間帯の労働には一定の制限をしておいた方がよいと思います。
宮田部長
 毎日、午後10時から午前5時に働けば、自動的に給料が25%増になるのであれば、そうしちゃうかもですもんね。
福島さん
 宮田部長、なにを言っているんですか、まったく(苦笑)。あと現実的にはすべての従業員にこの制度を導入するのは難しいですよね。例えば、管理部門や顧客担当者であれば、ある程度お昼の時間に勤務していないと業務に支障が出るように思います。
大熊社労士
 そうですね。そういった場合は職種単位でコアタイムを設けたり、そもそもフレックスを適用しないということもあるでしょう。ちなみに、この制度は新しいように見えますが、実はそうでもなくて、トヨタ自動車で2017年に導入され話題となったフリータイム&ロケーション・フォー・イノベーション制度もこれと同じような内容になっています。私も報道レベルでしか承知していないのですが、トヨタ自動車のケースでは、入社10年目くらいとなる主任級以上を対象に、約45時間分の固定残業を支給した上で、1日2時間以上勤務すればよいというフレックスタイム制を導入しているそうです。この制度の導入当時は、裁量労働制の実質的な拡大だとして大きく報道されていました。
服部社長
 なるほど。最近だとこうした制度に、リモートワークも加わって、柔軟な働き方が取り入れられているのでしょうね。当社の場合は製造業なのでそこまで柔軟な制度の導入は難しいですが、こうした制度を導入し、優秀な人材確保に繋げようという企業が増えそうですね。よくわかりました。知り合いの社長にも説明しておきます。あと、大熊さんの名刺のコピーもお渡ししておきますから、あとはよろしくです!

>>>to be continued

大熊社労士のワンポイントアドバイス[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
 こんにちは、大熊です。久し振りの更新となった大熊ブログでしたが、今回は最近、ベンチャー企業などで導入が増えているフルフレックス+固定残業という柔軟な働き方について取り上げました。

 リモートワークの導入により、朝9時からオフィスで働くという固定的な働き方が合わなくなり、より柔軟な働き方を導入することで生産性を上げ、同時に会社の魅力も高めようとする取り組みが増加しています。直接的には過重労働対策などが重要になりますが、同時に会社との適切な距離感を如何に保つのか、そして業務の成果をどのように評価するのかというHR方面の対応も重要になります。いずれにせよ、こうした柔軟な働き方を積極的に取り入れる企業とそうではない企業の二極化が進むことになるでしょう。新型コロナの感染拡大によって様々な社会の仕組みが変わりました。人材確保の観点からも柔軟な発想で働き方を改革していくことが重要となっています。

(大津章敬)