給与のデジタル払い パブコメが出され来年4月解禁の方向性
労働基準法では、「賃金は、原則、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」とされており、労働基準法施行規則において、従業員の同意を得ることを前提に、銀行その他の金融機関の口座への振込み、または金融商品取引業者に対する預り金への払込みにより賃金を支払うことを認めています。
以前は物の売買について、現金で行うことが中心でしたが、近年はキャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化が進んでおり、資金移動業者の口座への資金移動を給与受取に活用する(いわゆる「給与のデジタル払い」)ニーズもみられるようになっています。そのような背景から、一定の要件を満たした場合には、資金移動業者の口座への賃金支払を可能とする労働基準法施行規則の改正がパブリックコメントとして出されています。
その内容は、賃金の支払方法として、従業員の同意を得た場合に、資金決済に関する法律第36条の2第2項に規定する第二種資金移動業を営む資金決済法第2条第3項に規定する資金移動業者であって、次の①~⑧の要件を満たすものとして厚生労働大臣の指定を受けた者のうち従業員が指定するものの第二種資金移動業に係る口座への資金移動により賃金を支払うことを可能とするものです。
①賃金支払に係る口座の残高(以下「口座残高」という。)の上限額を100万円以下に設定していること又は100万円を超えた場合でも速やかに100万円以下にするための措置を講じていること。
②破綻などにより口座残高の受取が困難となったときに、従業員に口座残高の全額を速やかに弁済することができることを保証する仕組みを有していること。
③従業員の意に反する不正な為替取引その他の当該従業員の責めに帰すことができない理由により損失が生じたときに、その損失を補償する仕組みを有していること。
④最後に口座残高が変動した日から、少なくとも10年間は従業員が当該口座を利用できるための措置を講じていること。
⑤賃金支払に係る口座への資金移動が1円単位でできる措置を講じていること。
⑥ATMを利用すること等により、通貨で、1円単位で賃金の受取ができ、かつ、少なくとも毎月1回はATMの利用手数料等の負担なく賃金の受取ができる措置を講じていること。
⑦賃金の支払に係る業務の実施状況及び財務状況を適時に厚生労働大臣に報告できる体制を有すること。
⑧賃金の支払に係る業務を適正かつ確実に行うことができる技術的能力を有し、かつ、十分な社会的信用を有すること。
資金移動業者の口座への賃金支払を行う場合には、従業員が銀行口座または証券総合口座への賃金支払も併せて選択できるようにするとともに、従業員に対し、資金移動業者の口座への賃金支払について必要な事項を説明した上で、従業員の同意を得なければならないことを前提とするものになっています。
この労働基準法施行規則の公布は2022年11月が予定されており、2023年4月1日を施行日として進められています。給与の受け取り方に関する従業員のニーズも多様化してくることから、企業がこの改正をどのようにとらえ考えていくのか問われることになりそうです。
参考リンク
パブリックコメント「労働基準法施行規則の一部を改正する省令案に関する御意見の募集について」
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495220170&Mode=0
(宮武貴美)