中小企業における人的資本情報の開示とそのブランディングにおける価値
2022年8月30日に政府が取りまとめた企業の「人的資本可視化指針」。投資家の投資判断に必要な情報を提供するという観点から、大企業を中心に高い関心を集めていますが、中小企業にはどのような影響があるのでしょうか。
実は、今回の指針とはねらいが異なるものの、女性活躍推進法や次世代育成支援対策推進法等、既存の枠組みにおいて、中小企業に対しても実質的に人的資本に関する情報の公表が求められています。
2022年7月11日の記事「男女の賃金格差の開示を求める女性活躍推進法制度改正 2022年7月8日に施行されました」でお伝えした通り、「男女賃金の差異」の情報公表を求める改正女性活躍推進法により、情報公表項目に「男女の賃金の差異」が追加されると共に、常時雇用する労働者が301人以上の一般事業主に対する当該項目の公表、また、同101人以上300人以下の事業主に関しては、指定された16項目から任意の1項目以上の情報公表が必要となったことは、担当者の記憶にも新しいところではないでしょうか。
また、公的な機関による表彰や企業認定を受ける際にも、情報や取り組み内容の公表が必須となっています。例えば「くるみん認定」に関しては、企業が前述の法律に基づき作成が義務付けられている「一般事業主行動計画」等の提出等が要件の一つとして定められています。
こうした公的機関による表彰・認定の効果について検証された論文「公的な表彰・認定が中小企業の人材確保に与える効果―雇用主ブランディングの観点から―梅崎 修, 島貫 智行, 佐藤 博樹(2020)」によると、中堅・中小企業を対象とした質問票調査データを用いて統計的に分析した結果、表彰・認定の取得数が採用者の質的確保と従業員の離職率低下に貢献することが示されたということです。同論文は「大企業に比べて人材確保に劣る中小企業は、第三者機関の雇用主ブランディングを活用することが有効になる」と結論づけています。
人的資本に関する情報開示については、求職者や従業員の関心も高まりつつあります。既に従業員の労働環境の改善・向上等に取り組んでいる中小企業については、既存の法的枠組みを活用し、情報公開、さらには企業認定・表彰を目指すことで、人的資本に関する情報開示への世間的な注目を、人材確保への追い風に変えていける可能性が高まっています。
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2022年7月11日「男女の賃金格差の開示を求める女性活躍推進法制度改正 2022年7月8日に施行されました」
https://roumu.com/archives/112674.html
参考リンク
非財務情報可視化研究会「人的資本可視化指針」
https://www.cas.go.jp/jp/houdou/pdf/20220830shiryou1.pdf
参考文献
梅崎 修・島貫智行・佐藤博樹(2020)「公的な表彰・認定が中小企業の人材確保に与える効果―雇用主ブランディングの観点から―」『組織科学』54 (1), 2-15, 2020-09-20 特定非営利活動法人 組織学会
(菊地利永子)