岸田総理が示した今後の「こども・子育て政策」の基本的考え方

 岸田政権では「異次元の少子化対策」の実施を表明していますが、2023年3月17日の記者会見で今後のこども・子育て政策についての基本的考え方を示しました。3月末までにはパッケージとしての案が示されるとのことですが、以下ではその会見のポイントをまとめます。
【前提】

  • 2022年の出生数は過去最少の799,700人となり、僅か5年間で20万人近くも減少。2030年代に入ると、我が国の若年人口は現在の倍の速さで急速に減少することになる。このまま推移すると、我が国の経済社会は縮小し、社会保障制度や地域社会の維持が難しくなることから、2030年代に入るまでのこれから6年から7年が少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンス。
  • この国難に当たって、政策の内容・規模はもちろんのこと、社会全体の意識・構造を変えていく、そのような意味で、次元の異なる少子化対策を岸田政権の最重要課題として実現していく。
  • 小倉大臣の下で、こども政策の強化について、今月末をめどに具体的なたたき台を取りまとめるべく、検討が進められている。
  • 目指すのは、若い世代が希望どおり結婚し、希望する誰もが子供を持ち、ストレスを感じることなく子育てができる社会、そして、子供たちがいかなる環境、家庭状況にあっても、分け隔てなく大切にされ、育まれ、笑顔で暮らせる社会。
  • 20歳代、30歳代は同時期に学びや就職、出産、子育てなど、様々なライフイベントが重なる中で、現在の所得や将来の見通しが立たなければ、結婚、出産を望んでも後回しにならざるを得ない。このような状況を打開するためには若い世代の所得を向上させる政策、特に賃上げの実現がまず必要である。
  • 男女ともに、子育てに当たって、キャリア形成との両立や多様な働き方を阻む壁をなくしていかなければならない。
  • 家庭内において、育児負担が女性に集中している実態を変え、夫婦が協力しながら子を育て、それを職場が応援し、そして、地域社会全体で支援する社会をつくらなければならない。
  • こうした社会を目指すための対策の基本理念は、第1に「若い世代の所得を増やす」こと、第2に「社会全体の構造や意識を変える」こと、そして第3に「全ての子育て世帯をライフステージに応じて切れ目なく支援する」こと、この3つ。

【3つの対策の内容】
(1)若い世代の所得を増やす

  • 物価高に負けない賃上げに取り組む。賃上げが持続的、構造的なものとなるよう、L字カーブの解消などを含めた、男女ともに働きやすい環境の整備、希望する非正規雇用の方の正規化に加え、リスキリングによる能力向上支援、日本型の職務給の確立、成長分野への円滑な労働移動を進めるという三位一体の労働市場改革を加速し、若い世代の所得向上を実現する。
  • いわゆる106万円、130万円の壁を意識せず働くことが可能となるよう、短時間労働者への被用者保険の適用拡大、最低賃金の引上げに取り組む。
  • 106万円、130万円の壁について、被用者が新たに106万円の壁を超えても、手取りの逆転を生じさせない取組の支援などをまず導入し、さらに、制度の見直しに取り組む。
  • 子育て世帯に対する経済的支援の強化として、兄弟姉妹の多い家庭の負担、高等教育における教育負担なども踏まえて、児童手当の拡充、高等教育費の負担軽減、さらには若い子育て世帯への住居支援などについて、包括的な支援策を講じる。

(2)社会全体の構造や意識を変える

  • 政府としては、こどもファースト社会の実現をあらゆる政策の共通の目標とする。
  • 現状、低水準にとどまっている男性の育休取得率の政府目標を大幅に引き上げて、2025年度に50パーセント、2030年度に85パーセントとする。目標達成を促すため、企業ごとの取組状況の開示を進める。
  • 中小企業において、育児休業取得の際の職場の負担を気兼ねする声が多いことも踏まえ、応援手当など育休を促進する体制整備を行う企業に対する支援を検討する。
  • 国家公務員については、先んじて男性育休の全員取得を目標として定め、2025年度には85パーセント以上が1週間以上の育休を取得するための計画を策定し、実行に移す。
  • 育休を取りやすい職場づくりと両輪で、育児休業制度自体も充実させる。キャリア形成との両立を可能にし、多様な働き方に対応した自由度の高い制度へと強化する。
  • 時短勤務時にも育児休業給付が行われるよう見直す。
  • 産後の一定期間に男女で育休を取得した場合の給付率を手取り10割に引き上げる。
  • 育児休業中の所得減少に対する支援を、非正規に加え、フリーランス、自営業者にも、育児に伴う収入減少リスクに対応した新たな経済的支援を創設する。
  • 職場に復帰した後の子育て期間における働き方については、人生のラッシュアワー(20歳代、30歳代のライフイベントが多い時期)に当たる時期に子供と一緒に過ごす時間を確保できるよう、例えば「フレックスタイムで午後5時までに帰宅する」、「テレワークを活用する」など、働き方を変えていかなければならない。

(3)全ての子育て世帯を切れ目なく支援する

  • 子育て支援サービスの内容についても、親が働いていても、家にいても、全ての子育て家庭に必要な支援をすること、幼児教育・保育サービスについて、量・質両面からの強化を図ること、これまで比較的支援が手薄だった妊娠、出産時から0~2歳の支援を強化し、妊娠、出産、育児を通じて、全ての子育て家庭の様々な困難、悩みに応えられる伴走型支援を強化すること、子供の貧困、障害児や医療ケアが必要なお子さんを持つ御家庭、ひとり親家庭などに対して、より一層の支援を行うことなどが必要。

【今後の予定】
2023年3月末 対策のたたき台のとりまとめ
2023年4月1日 こども家庭庁発足
2023年6月 骨太の方針までに将来的なこども予算倍増に向けた大枠を示す

 企業にとっても大きな影響が出る内容となりそうです。続報を待ちましょう。


参考リンク
首相官邸「岸田内閣総理大臣記者会見 令和5年3月17日」
https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2023/0317kaiken.html
首相官邸「記者会見提示資料」
https://www.kantei.go.jp/jp/content/20230317kaiken.pdf

(大津章敬)