労働移動促進による経済成長を目指す内閣官房「三位一体労働市場改革の論点案」

 労働時間の上限規制や同一労働同一賃金などを推進した働き方改革は「新しい資本主義」というフェーズ2に移行し、今回は我が国の労働の在り方を大きく変化させようとしています。昨日(2023年4月12日)、内閣官房新しい資本主義実現本部事務局は「三位一体労働市場改革の論点案」を公表しました。今回はそのポイントをご紹介することで、今後の働き方の変化について見ていくこととしましょう。

 この論点案の前文では以下のような内容が述べられており、労働移動を促進することによる日本経済の成長を図っていくことが目的であることが分かります。
「働き方は大きく変化している。『キャリアは会社から与えられるもの』から『一人一人が自らのキャリアを選択する』時代となってきた。職務ごとに要求されるスキルを明らかにすることで、労働者が自分の意思でリ・スキリングを行い、職務を選択できる制度に移行していくことが重要である。そうすることにより、社外からの経験者採用にも門戸を開き、内部労働市場と外部労働市場をシームレスにつなげ、労働者が自らの選択によって労働移動できるようにしていくことが、日本企業と日本経済の更なる成長のためにも急務である。」

 その上で、この論点案は以下のような項目から構成されています。全体像を掴むために、

1.リ・スキリングによる能力向上支援
(1)個人への直接支援の拡充
(2)「人への投資」施策パッケージのフォローアップと施策見直し
(3)雇用調整助成金の見直し
2.個々の企業の実態に応じた職務給の導入
(1)職務給の個々の企業の実態に合った導入
(2)給与制度・雇用制度の透明性
3.成長分野への労働移動の円滑化
(1)失業給付制度の見直し
(2)退職所得課税制度の見直し
(3)自己都合退職に対する障壁の除去
(4)求人・求職・キャリアアップに関する官民情報の共有化
4.多様性の尊重と格差の是正
(1)最低賃金
(2)労務費の適切な転嫁を通じた取引適正化
(3)同一労働・同一賃金制の施行の徹底
(4)キャリア教育の充実

 詳細は参考リンクをご参照いただければと思いますが、以前から方針が示されていたジョブ型指針の策定などに加え、労働移動を阻害しているとされる「失業給付制度の見直し」「退職所得課税制度の見直し」などにまで踏み込んだ内容となっています。更には自己都合退職の場合に退職金が減額される労働慣行についても課題とし、厚生労働省のモデル就業規則の改正まで検討するという徹底ぶり。内閣官房の強い意気込みが伝わる内容となっています。
 
 今後、更なる検討が進められ、必要な法改正などに繋げられていくことになると思われますが、子育て政策に加え、労働の在り方についても大きな変化が予想されます。 


参考リンク
内閣官房新しい資本主義実現本部事務局「三位一体労働市場改革の論点案(令和5年4月12日)」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/kaigi/dai16/shiryou1.pdf

(大津章敬)