各地方における賃上げの現状と今後の課題・対策

 先日公表された骨太の方針2024では、賃上げが最重要政策として取り上げられていました。その実現のための課題を分析したレポートが内閣府より公開されましたので、今回は今春の賃上げの地域差に関する状況と今後の賃上げのための課題について取り上げます。

 賃上げの地域差については1年前の2023年のデータで分析が行われていますが、これを見ると全国的に賃金上昇は進んでいるものの、地域差が存在していることが分かります。本レポートでは賃上げが好調な地域の要因を以下の2つに分けて分析を行っています。

  1. 製造業けん引型
  2. インバウンドけん引型

 製造業けん引型は、東海、北関東、富山県などが該当しますが、大手製造業では、春闘により定期的に労使間の賃金交渉が行われるため、製造業の産業立地や労働組合加入率の地域差が賃金上昇率を左右する要因になっています。一方、インバウンドけん引型としては北海道が挙げられていますが、北海道では、ホテル関係の求人の増加が顕著であり、インバウンド需要が賃金上昇をけん引しています。また、ホテル建設・リゾート開発等や社会資本整備も進んでおり、建設業の募集賃金も2022年以降強い伸びを見せています。

 現在の地域別の賃上げの状況は以上のようになっていますが、本レポートでは今後、賃金・物価の好循環が進むために求められる方策として、以下の3点を挙げています。
(1)価格転嫁対策と省力化投資の継続

  • 「労務費の転嫁のための価格交渉に関する指針」の周知徹底と交渉用フォーマットの展開・活用を促すとともに、「パートナーシップ構築宣言」の拡大を全国的に進め、サプライチェーン全体での協力拡大という新たな商慣行の定着に向けた意識改革を進めていく必要。
  • 中堅・中小企業を中心に生産性向上を進め、企業の稼ぐ力を強化(賃上げ促進税制の拡充、中小企業省力化投資補助金(カタログ型省力化投資支援)、中堅・中小企業の成長投資補助金等の施策)

(2)人手不足の中で賃金をシグナルとした労働移動が活発化する兆し、これを見据えた賃上げが重要。中長期的には地方の産業・就業構造の変革が必要

  • 一層の効率化と高付加価値化による生産性向上、それに応じて賃金水準を高めていけるよう、経営マインドを変革していくことが必要。
  • 例えば、北海道・熊本県で進められるような半導体関連産業の集積は、建設需要等の活性化により短期的に経済を押し上げることに加え、地域の産業・就業構造の変革によって中長期的に地域経済の活性化に寄与。

(3)地方経済を支えるための公的分野の賃上げ

  • 春闘における力強い賃上げの流れを地方の公的分野(公務、医療・福祉、教育等)に波及させ、物価上昇を上回る賃金上昇を達成し、定着させていくことが重要。

 今後、賃上げは企業の生き残りのためにも重要な課題となりますが、そのためには企業の生産性向上を通じた収益力の強化が欠かせません。人事労務管理実務家もこれからは経営全体の最適化を考えながら仕事を遂行していくことが重要になるでしょう。


参考リンク
内閣府「地域課題分析レポート(2024年春号)」
https://www5.cao.go.jp/j-j/cr/cr24-1/chr24-1_index-pdf.html

(大津章敬)