厚労省懇談会でまとめられた年金制度改革の方向性
働き方の多様化が進展する中で、被用者にふさわしい保障を実現するとともに、労働者の働き方の選択に中立的な社会保障制度の構築を進めることを目指し、厚生労働省 働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会で議論が進められてきましたが、先日、その取りまとめが公表されました。
具体的には以下の4つの適用要件についての議論が行われ、その方向性が示されています。
(1)労働時間要件
本要件の引下げについては、雇用保険の適用拡大等を踏まえ検討が必要との見方がある一方、これまでの被用者保険の適用拡大においても指摘されてきた保険料や事務負担の増加という課題は、対象者が広がることでより大きな影響を与えることとなる。また、雇用保険とは異なり、国民健康保険・国民年金というセーフティネットが存在する国民皆保険・皆年金の下では、事業主と被用者との関係性を基盤として働く人々が相互に支え合う仕組みである被用者保険の「被用者」の範囲をどのように線引きするべきか議論を深めることが肝要であり、こうした点に留意しつつ、雇用保険の適用拡大の施行状況等も慎重に見極めながら検討を行う必要がある。
(2)賃金要件
本要件の引下げについては、これまで対象としていなかった働き方をする労働者に適用範囲を広げるという点で、労働時間要件の引下げの検討で指摘された論点と同様の側面がある。同時に、本要件特有の論点として、年収換算で約 106 万円相当という額が就業調整の基準として意識されている一方、最低賃金の引上げに伴い労働時間要件を満たせば本要件を満たす場合が増えてきていることから、こうした点も踏まえて検討を行う必要がある。
(3)学生除外要件
就業年数の限られる学生を被用者保険の適用対象とする意義は大きくないこと、実態としては税制を意識しており適用対象となる者が多くないと考えられること、適用となる場合は実務が煩雑になる可能性があること等の観点から、本要件については現状維持が望ましいとの意見が多く、見直しの必要性は低いと考えられる。
(4)企業規模要件
経過措置として設けられた本要件については、他の要件に優先して、撤廃の方向で検討を進めるべきである。併せて、事業所における事務負担や経営への影響、保険者の財政や運営への影響等に留意し、必要な配慮措置や支援策の在り方について検討を行うことが必要である。
また、その他の論点については以下のような方向性が示されています。
(1)個人事業所に係る被用者保険の適用範囲の在り方
常時5人以上を使用する個人事業所における非適用業種については、5人未満の個人事業所への適用の是非の検討に優先して、解消の方向で検討を進めるべきである。併せて、見直しを行った場合に対象となる事業所は新たに被用者保険の適用事業所となる小規模事業者が大半であることも踏まえ、事務負担や経営への影響、保険者の財政や運営への影響等に留意し、必要な配慮措置や支援策の在り方について検討を行うことが必要である。
(2)複数の事業所で勤務する者
複数の事業所で勤務する者について、労働時間等を合算する是非は、マイナンバーの活用状況や雇用保険の施行状況等を参考に、実務における実行可能性等を見極めつつ、慎重に検討する必要がある。その上で、まずは現行の事務手続を合理化し、事務負担軽減が図られるよう、具体的な検討を進めるべきである。
(3)フリーランス等
フリーランス等の働き方や当事者のニーズは様々であるが、現行の労働基準法上の労働者については、被用者保険の適用要件(雇用期間や労働時間等)を満たせば適用となることから、適用が確実なものとなるよう、労働行政との連携を強化しており、その運用に着実に取り組んでいくべきその上で、労働基準関係法制研究会において、労働基準法上の労働者について国際的な動向を踏まえて検討がなされており、まずは、労働法制における議論を注視する必要がある。また、従来の自営業者に近い、自律した働き方を行っているケースについては、被用者保険が事業主と被用者との関係性を基盤として働く人々が相互に支え合う仕組みであること、医療保険制度や年金制度においては、労働保険と異なり、国民健康保険・国民年金というセーフティネットが存在することを踏まえ、諸外国の動向等を注視しつつ、中長期的な課題として引き続き検討していく必要がある。
これらの論点については、引き続き社会保障審議会の医療保険部会や年金部会等において行われ、一部の内容は次期年金制度改革に盛り込まれていくことになるでしょう。
参考リンク
厚生労働省「「働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会」議論の取りまとめ(2024/7/3)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_41109.html
(大津章敬)