約2割の企業で今秋の最低賃金割れ発生の見込み

 今春の賃上げを受け、10月の最低賃金引上げも例年にはない、水準で実施される見通しとなっています。こうした最低賃金の引き上げにより、最低賃金割れの労働者が発生し、その対応が進められていますが、今回はそうした状況について、東京商工リサーチの「2024年「最低賃金引き上げに関するアンケート」調査の結果を見ていきたいと思います。
(1)2024年度の最低賃金引き上げ額の目安は50円となりました。目安通りの引き上げとなった場合、貴社では給与設定を変更しますか?
■引き上げ後の最低賃金額より低い時給での雇用はなく、給与は変更しない
  全体 59.61% 資本金1億円以上 67.21% 資本金1億円未満 58.77%
■引き上げ後の最低賃金額より低い時給での雇用はないが、給与を引き上げる
  全体 21.12% 資本金1億円以上 17.12% 資本金1億円未満 21.57%
■現在の時給は引き上げ後の最低賃金額を下回っており、最低賃金額を超える水準まで給与を引き上げる
  全体 7.50% 資本金1億円以上 6.19% 資本金1億円未満 7.65%
■現在の時給は引き上げ後の最低賃金額を下回っており、最低賃金額と同額まで給与を引き上げる
  全体 11.77% 資本金1億円以上 9.47% 資本金1億円未満 12.02%

(2)最低賃金の上昇に対して、貴社はどのような対策を実施、または検討していますか?
■商品やサービスの価格に転嫁する
  全体 48.55% 資本金1億円以上 50.14% 資本金1億円未満 48.40%
■設備投資を実施して生産性を向上させる
  全体 26.70% 資本金1億円以上 36.20% 資本金1億円未満 25.76%
■雇用人数を抑制する
  全体 16.75% 資本金1億円以上 13.94% 資本金1億円未満 17.02%
■従業員の雇用形態を変更する
  全体 14.60% 資本金1億円以上 13.05% 資本金1億円未満 14.75%
■設備投資を抑制して財務負担を低減させる
  全体 10.84% 資本金1億円以上 6.52% 資本金1億円未満 11.27%
■できる対策はない
  全体 18.36% 資本金1億円以上 14.54% 資本金1億円未満 18.73%

 このように19.27%で最賃割れの従業員が見込まれ、その対応が求められています。最賃割れというとかつてはアルバイトなどが想定されましたが、近年の最低賃金の引き上げにより、高卒新入社員の初任給が最低賃金に届かないというケースが増えています。特に中小企業の場合は月平均所定労働時間が173時間など長い場合が多く、これで最低賃金が仮に1,054円だとすれば、月額で182,342円となります。
 
 また政府の方針としては2030年台前半に全国加重平均で1,500円にするとしていますので、この方針に基づけば今後も毎年50円程度の最低賃金引上げが行われることとなります。仮に173時間だとすれば月額で8,650円。ベースの賃金が毎年これだけ上昇するとすれば、若手社員の賃金のフラット化が進み、社員の不満の高まり、離職の増加が懸念されます。それだけに賃金カーブの見直しも不可欠となりますが、まずはこうした賃金上昇に対応できるだけの収益性・生産性の確保がなによりも重要となります。これからの時代は人事からも経営全体に提言を行っていくことが強く求められます。


関連記事
2024年7月26日「【答申】令和6年度地域別最低賃金額改定の目安は全国一律の50円に」
https://roumu.com/archives/123619.html

参考リンク
東京商工リサーチ「2024年「最低賃金引き上げに関するアンケート」調査(2024/8/21)」
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1198859_1527.html

(大津章敬)