叱って育てるマネジメントは若年層のメンタルヘルス不調リスクを高めることが定量調査で明らかに

 メンタル不調の早期発見・早期対応の重要性が認識された2000年代以降、精神障害の労災認定基準の厳格化やストレスチェックの義務化といった法制度改正が進められ、多くの組織で相談体制などが整備された一方で、特に20代社員のメンタルヘルス不調による休職・離職が増加傾向にあることが指摘されています。

 パーソル総合研究所は、この問題に着目し「若手従業員のメンタルヘルス不調についての定量調査」を実施。その結果が今般公開されました。今回は同レポートの概要を紹介します。

調査対象:【スクリーニング調査】20~69歳男女 20,000名【本調査】取締役・社長を除く20~69歳男女 計3,025名①正規雇用者 1,500名②20代非管理職 1,000名③管理職 500名④メンタルヘルス不調経験者 1,000名※①~④はサンプルの重複あり。ライスケール1問正答者
調査方法:調査会社モニターを用いたインターネット定量調査
調査時期:2024年 8月6日 – 8月8日、8月29日 – 9月5日
実施主体:株式会社パーソル総合研究所


1.メンタルヘルス不調の発生率・退職率・休職率
• 過去3年以内の、治療なしでは日常生活が困難なほどのメンタルヘルス不調について、若年層ほど経験率が高く、正社員のうち20代男性の18.5%、20代女性の23.3%に上る。
• 過去3年以内の不調経験者(当時正規雇用者)のうち退職したのは25%で、20代では約4割と多い。
• 3年以内の不調経験者(当時正規雇用者)のうち休職したのは全体・20代ともに約2割。20代休職者の約半数が自主退職している。

2.若手のメンタルヘルス増加と悪化の要因
(1)メンタルヘルス増加若手特有の要因
 ①仕事のプレッシャー・難しさ
 20代正規雇用者がメンタルヘルス不調になった主な理由は、「仕事のプレッシャー・難しさ」が27.8%と最多。次いで、「上司との関係・ハラスメント」。
 ②就業意識
 ・拒否回避思考が強く叱責が苦手
 若年層ほど、他者からの否定的評価を避けようとする「拒否回避志向」(怒られたくない、人目を気にする、受け身の姿勢、失敗への恐れ、対立回避)が強い傾向。拒否回避志向が強いほど、上司からの叱責によりストレス反応が高まりやすい。
 ・キャリア不安
 20代の約8割が、将来のキャリアに不安があり、ストレス反応とも関連。
 ③就業環境
 ・デジタル端末の長時間使用
 若年層ほどスクリーンタイム(スマホ等のデジタル画面の使用時間)が長く、特にテレワーク実施者やIT・間接部門・事務職で長い。スクリーンタイムが長いほど、脳疲労や眼精疲労、ストレス反応が高まる。
 ・テレワーク下の孤独感
 20代では、30代以上と異なり、テレワーク実施者の孤独感が高い。

(2)悪化の要因
 ①上司部下の認識ギャップ
 管理職の多くは早期相談を推奨し、メンタルヘルス不調による不利益な取り扱いの違法性も認識あり。しかし、部下の側では同じ認識が行き渡っておらず、「相談すれば評価・評判が下がる」との根強い認識や、相談後の職場の対応の不透明さから、職場に相談せず重症化するケースが多かった。
 ②休職中の収入や復職支援についての知識不足
 キャリアへの不安が強い若手は、相談による評価低下や休職による成長機会の喪失を懸念しがちで、このことが休職への抵抗感を生み離職につながっていた。


 今回のレポートでは、調査の分析結果から、組織に対し、以下提言がなされています。
①叱責によらない成長支援には、成長につながる業務分担やフィードバックの提供が有効。
②スマートフォンなどのデジタル端末の過剰利用は若手に多く、眼精疲労や脳の疲労を通じてストレス耐性を下げるリスク有。デスクワークが多い職種では、健康増進策として啓発を進めることも検討に値する。
③非管理職にも職場の対応イメージを持たせるため、研修や社内報を通じた非管理職向けの啓発施策が有効。

 人手不足の中、若手従業員の離職は痛手で、管理職にも大きな負荷がかかってきます。今回可視化されたように、メンタルヘルスへの対策は、職場にとってより喫緊の課題になってくることがわかります。同レポートには、調査結果や分析等が詳しく解説されていますので、これらを参考にしながら、人事労務の両面から対策を行っていきたいところです。


参考リンク
パーソル総合研究所「若手従業員のメンタルヘルス不調についての定量調査」
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/assets/young-mental-health.pdf

(菊地利永子)


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