骨太の方針2025に見る最低賃金引き上げの方向性
先週金曜日(2025年6月13日)、経済財政運営と改革の基本方針2025(いわゆる骨太の方針)が閣議決定されました。「賃上げこそが成長戦略の要」であると謳われた今回の骨太の方針ですが、賃上げに関しては、以下のように物価上昇を1%程度上回る賃金上昇、つまり日銀の物価安定目標を踏まえれば、3%程度の賃金上昇を継続していくとしています。
- 2029年度までの5年間で、日本経済全体で年1%程度の実質賃金上昇、すなわち、持続的・安定的な物価上昇の下、物価上昇を1%程度上回る賃金上昇をノルムとして定着させる。
- この実現に向け、中小企業・小規模事業者の賃上げを促進するため、価格転嫁・取引適正化、生産性向上、事業承継・M&Aによる経営基盤強化及び地域の人材育成と処遇改善に取り組む。
一方、最低賃金についての記述の引用しましょう。
- 最低賃金については、適切な価格転嫁と生産性向上支援により、影響を受ける中小企業・小規模事業者の賃上げを後押しし、2020年代に全国平均1,500円という高い目標の達成に向け、たゆまぬ努力を継続することとし、官民で、最大限の取組を5年間で集中的に実施する。
- 政府として、「中小企業・小規模事業者の賃金向上推進5か年計画」に定める、(1)地方の中小・小規模事業者にとって重要な官公需における対策等を含めた価格転嫁・取引適正化の徹底、(2)業種別の「省力化投資促進プラン」とそれに基づくきめ細かな支援策の充実と支援体制の整備を通じた中小企業・小規模事業者の生産性向上、(3)中小・小規模事業の経営者の方々の事業承継・M&Aに関する不安や障壁を取り払い、先々の経営判断を計画的に行うことができる環境の整備、(4)地域で活躍する人材の育成と処遇改善等の施策パッケージを実行する。
- また、EU指令においては、賃金の中央値の60%や平均値の50%が最低賃金設定に当たっての参照指標として、加盟国に示されている。最低賃金の引上げについては、我が国と欧州では制度・雇用慣行の一部に異なる点があることにも留意しつつ、これらに比べて、我が国の最低賃金が低い水準となっていること及び上記の施策パッケージも踏まえ、法定3要素のデータに基づき、中央最低賃金審議会において議論いただく。
- 「中小企業・小規模事業者の賃金向上推進5か年計画」には、中小企業・小規模事業者の生産性向上、官公需の価格転嫁等が定められている。国は、計画を踏まえ、都道府県・市町村が地域の状況に応じてきめ細かな賃上げ環境整備に取り組むことを、様々な政策手段を活用して後押しする。
- その中で、各都道府県の地方最低賃金審議会において中央最低賃金審議会の目安を超える最低賃金の引上げが行われた場合は、持続的な形で売上拡大や生産性向上を図るための特別な対応として、政府の補助金による重点的な支援を行うことや、交付金等を活用した都道府県の様々な取組を十分に後押しすることにより、生産性向上に取り組み、最低賃金の引上げに対応する中小企業・小規模事業者を大胆に後押しする。
- 地方最低賃金審議会において、これらの政府全体の取組や各都道府県の賃上げ環境も踏まえ、法定3要素のデータに基づき、実態を踏まえた審議決定となるよう、議論いただく。
- 地域別最低賃金の最高額に対する最低額の比率を引き上げる等、地域間格差の是正を図る。
今回の骨太の方針で初めて取り上げられたのがEU指令における最低賃金設定ルールです。これは以前から連合が主張しているもので、連合の2025年度最低賃金取り組み方針の中でも「一般労働者の賃金中央値の6割水準をめざしさらなる引き上げをはかる」との記載が見られます。同資料では、2023年時点での我が国の賃金中央値の60%の金額を1,284円としており、今回の骨太の方針ではこれを意識した議論を中央最低賃金審議会に求めています。
当然、この水準まで一気に引き上げられるということはありませんが、中央最低賃金審議会の目安を超える最低賃金の引上げが行われた場合の都道府県への補助金や交付金による支援まで定めているということを勘案しても、大幅な最低賃金引き上げへの布石が打たれたとみることができるのではないでしょうか。
参考リンク
内閣府「経済財政運営と改革の基本方針」
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/honebuto-index.html
JILPT「2025年適用最賃の大幅引き上げにEU指令が影響か―最低賃金指令の概要とEurofoundレポート」
https://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2025/02/eu_01.html
連合「2025年度最低賃金取り組み方針」
https://www.jtuc-rengo.or.jp/activity/roudou/data/2025_chingin_torikumi.pdf?30#:~:text=%E7%A2%BA%E8%AA%8D%EF%BC%8F2024.12.19-,%E3%80%90%E9%87%8D%E7%82%B9%E5%88%86%E9%87%8E%EF%BC%8D%EF%BC%92%E3%80%912025%20%E5%B9%B4%E5%BA%A6%E6%9C%80%E4%BD%8E%E8%B3%83%E9%87%91%E5%8F%96%E3%82%8A%E7%B5%84%E3%81%BF%E6%96%B9%E9%87%9D,%E3%81%AE%E7%B7%A0%E7%B5%90%E3%83%BB%E6%94%B9%E5%AE%9A%E3%81%AB%E5%8F%96%E3%82%8A%E7%B5%84%E3%82%80%E3%80%82&text=%E3%80%87%E3%81%99%E3%81%B9%E3%81%A6%E3%81%AE%E5%83%8D%E3%81%8F%E4%BA%BA,%E3%81%AA%E5%8F%96%E3%82%8A%E7%B5%84%E3%81%BF%20%E5%88%A5%E7%B4%99%E3%81%AE%E9%80%9A%E3%82%8A%E3%80%82
連合「最低賃金に関する海外調査最終報告」
https://www.jtuc-rengo.or.jp/activity/roudou/data/saiteichingin_overseas_report2023.pdf?24#:~:text=%E6%AC%A7%E5%B7%9E%E8%AB%B8%E5%9B%BD%E3%81%A7%E3%81%AF%E7%8F%BE%E5%9C%A8%E3%80%81%EF%BC%A5%EF%BC%B5,%E5%8B%95%E3%81%8D%E3%81%8C%E5%BC%B7%E3%81%BE%E3%82%8B%E3%81%A8%E3%81%BF%E3%82%89%E3%82%8C%E3%82%8B%E3%80%82
(大津章敬)

