増額・導入と減額・廃止が同時に進み、曲がり角を迎える退職金制度

退職金制度の新規導入や増額という流れと、減額・廃止という流れが同時に来ており、今回はそうした現在の状況を表す調査結果が東京商工リサーチから出されましたので、その内容を取り上げます。
(1)二極化する企業の退職金動向
調査によると、2023年以降の退職金制度を「変更していない」企業が72.5%と大半を占める一方、「増額・導入」に動いた企業が7.8%、「減額・廃止」とした企業が1.9%という結果になりました。
特筆すべきは、制度を変更・検討する企業の「目的」が、企業の規模や経営課題によって二極化している点です。
■「増額・導入」の動き
人材不足が極めて深刻な建設業(12.3%)や卸売業(8.4%)が牽引しています。賃上げに伴う基本給の上昇が退職金に連動しているケースや、他社との差別化のために福利厚生としてあえて新規導入する動きが見られます。
■「減額・廃止」の理由(大企業と中小企業の乖離)
大企業では「確定拠出年金(企業型DC等)への移行(50.0%)」が最多であり、資産形成の役割を個人に委ねる形へのシフトが進んでいます。一方、中小企業では「成果主義への移行(38.3%)」が最多です。限られた原資を固定的な退職金として囲い込むのではなく、目に見える成果(賞与や手当)として現役世代に分配する傾向が強まっています。

(2)退職金の給与化の流れ
退職金を「減額・廃止」した企業が、その浮いた原資をどこに充てたかという問いに対し、48.9%が「既存従業員の月給引き上げ」と回答しました。次いで「中途採用者の月給引き上げ(23.9%)」が続いています。

物価高が続く昨今、求職者や若手社員のニーズは「不確実な未来の退職金」よりも「今の生活を支える月給の高さ」へとシフトしています。退職金前払い的な思想で月給を底上げし、採用競争力を直接的に高める戦略を採用する企業が増えています。

今回の調査では以上のような結果が出ていますが、今後、より多くの企業で退職金制度の見直しが行われると予想しています。その際のポイントを2点にまとめます。
(1)貢献度反映型退職金制度への移行
「長く勤めれば得をする」仕組みは、転職が一般化した現代の若手・中堅層には響きにくくなっています。勤続年数連動ではなく、役割や成果に応じた「ポイント制退職金」への移行、あるいは退職金相当額を毎月の給与に上乗せする「前払い選択制」の導入が増加しています。
(2)確定供出年金の活用
退職金を減額・廃止する場合でも、会社が従業員の老後リスクを完全に突き放すのは得策ではありませんし、また税金の負担などの問題も存在します。よって同時に型確定拠出年金を導入し、税制優遇を受けながら従業員が「自己責任」で資産形成できるインフラを会社が提供することが、新たなエンゲージメント(貢献意欲)の向上につながります。

その他、昨今のインフレで従来の退職金は実質的に目減りをすることから、その対策として確定拠出年金に移行し、社員の運用を促すという動きも強まっています。まずは自社の退職金を取り巻く環境の分析と課題出しから始められてみてはいかがでしょうか。


参考リンク
東京商工リサーチ「2026年「退職金」に関するアンケート調査(2026/6/17)」
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1202961_1527.html

(大津章敬)