骨太の方針2026原案で示されている人事労務関連の重要論点
内閣府が2026年6月30日に公表した「経済財政運営と改革の基本方針2026(骨太の方針2026)」の原案について、人事労務に関連する重要ポイントについて、簡単に解説します。
高市政権初となる今回の骨太方針案は、従来の「分配・地方創生」重視から「投資と経済成長」へ大きく舵を切ったことが最大の特徴です。人手不足(労働供給制約)が極まる中、企業が生き残るための「人的資本投資」「労働生産性向上」「柔軟な働き方の選択肢拡大」が強く打ち出されています。以下では、経営者・人事担当者にとって特に重要な3つのポイントについて見ていきましょう。
1.最低賃金「2030年代前半に1,500円」の目標
注目の最低賃金については、「2020年代に全国平均1,500円という高い目標(骨太方針2025)の達成に向け、官民でたゆまぬ努力を継続し、労働生産性の継続的な向上を図ることで、遅くとも2030年代前半できる限り早期に全国平均1,500円を達成する」という記載になりました。また賃上げについても、「2029年度までの間で、日本経済全体で、実質賃金で年1%程度の上昇、すなわち、持続的・安定的な物価上昇の下で、物価上昇を年1%程度上回る賃金上昇を賃上げのノルム(社会通念)として我が国に定着させる」という従来の方針を確認しています。
(1)方向性
政府は単に賃上げを強いるのではなく、中堅・中小企業の「稼ぐ力(生産性向上)」への支援を複数年度にわたって継続する方針を示しています。
(2)実務への影響と対策
実現時期は若干先送りされたものの、最低賃金1,500円の達成については再度確認された形になっています。ベースアップに伴う人件費の上昇を見越し、付加価値の低い業務の削減、IT・AI投資による業務効率化を進めることが急務です。また、「年収の壁」対策を含め、短時間労働者が就業調整をせずに働ける環境づくりや、賃金制度の見直し・同一労働同一賃金の徹底をいまから計画的かつ戦略的に進めていく必要があるでしょう。
2.労働時間法制改革
話題の労働時間法制に関しては、「心身の健康維持と従業者の選択を前提に、柔軟で多様な働き方を実現するため、労働時間法制等に係る政策対応について、夏以降の労働政策審議会において議論を行う。」という簡単な表記に止まっていますが、2028年度の改正に向け、具体的に動いていくことが明確にされたともいえるでしょう。
(1)方向性
骨太の方針では具体的な内容は示されていませんが、厚生労働省の労働市場改革分科会などの議論を踏まえれば、以下のような改正が予想されます。
裁量労働制の対象拡大
変形労働時間制の柔軟化
フレックスタイム制におけるコアデイの設定
特例措置対象事業場の週44時間特例措置の廃止
副業・兼業時の割増賃金にかかる労働時間通算ルールの廃止
(2)実務への影響と対策:
このような改正点の中でも、副業兼業にかかる労働時間通算ルールの見直しは、労働契約での副業兼業の増加のきっかけになると思われます。その他の論点も含め、動向に注視しましょう。
3.労働市場改革と円滑な労働移動
労働力供給制約に対応するため、成長分野への「円滑な労働移動」を支援する方針が強化されています。
(1)方向性
雇用保険制度を「生活・雇用の安定(雇用の維持)」というセーフティネットの役割を維持しつつ、働き手の「早期再就職やキャリアアップ」を後押しする仕組みへとシフトさせていく法区政が議論されています。さらに、AIを活用した「労働市場の見える化(職業情報の整備)」が進められます。
(2)実務への影響と対策:
労働市場の流動性が高まるということは、「優秀な人材が流出しやすくなる一方で、必要なスキルを持つ人材を外部から獲得しやすくなる」ことを意味します。企業としては、従業員のリスキリング(学び直し)支援を社内制度として構築するとともに、エンゲージメントを高める人事施策を講じなければ、競合他社に人材を奪われるリスクが高まります。経営戦略と人材戦略を連動させる「人的資本経営」の実践が強く求められます。
今回の原案では、保留中を意味する(P)の記載が多く見られる状況ですので、今後の調整・とりまとめが注目されますが、本日取り上げた論点についてはほぼ確定的と言える内容ですので、関係する項目については徐々に議論を開始しましょう。
参考リンク
内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026(原案)2026/6/30」
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2026/0630_shiryo01.pdf
(大津章敬)

