「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」の概要と改正のポイント
昨日(2026年10月19日)、厚生労働省から「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」の改正が公示されました。労働者の高年齢化や働き方の変化、定期健康診断での有所見率の上昇などを背景に、事業場における健康管理の重要性は年々高まっています。そこで以下では、人事労務担当者が押さえておくべき本指針の基本概要と、今回の改正における主要なポイントを解説します。
(1)指針の概要
本指針は、労働安全衛生法第70条の2第1項に基づき、事業者が講ずるよう努めるべき「健康保持増進措置」の原則的な実施方法を定めたものです。
〇基本的な考え方・目的
単なる労働災害防止や健康障害予防にとどまらず、労働生活の全期間を通じて継続的かつ計画的に心身両面の健康保持増進を目指します。就業形態を問わず全ての労働者を対象とし、個人の自助努力だけでなく、事業者が積極的に体制を整備して推進することが求められます。
〇具体的な推進フロー
中長期的視点に立ち、1.方針の表明、2.推進体制の確立、3.課題の把握、4.目標の設定、5.措置の決定、6.計画の作成、7.計画の実施、8.実施結果の評価(PDCAサイクルの回旋)という手順で進めます。
〇取り組みの具体策
産業医や保健師等の社内スタッフに加え、スポーツクラブや医療保険者、産業保健総合支援センターなどの外部資源を活用しながら、運動指導・メンタルヘルスケア・栄養指導・口腔保健指導・保健指導などを実施します。
(2)今回の主な改正点
今回の改正では、特に「一次予防から二次予防への拡張」「がん検診等や両立支援の推進」「デジタル技術・PHRの活用」といった時代に即した新たな視点が反映されました。
1.一次予防に加え「二次予防」の取り組みを強化
これまでの生活習慣改善を中心とした一次予防(発症予防)だけでなく、健康診断等による早期発見・早期治療(二次予防)も健康保持増進対策の一環として明確に位置づけられました。具体的には、国が推奨する5大がん(胃・肺・大腸・乳・子宮頸)検診や女性特有の健康課題、歯科・眼科疾患等の受診勧奨、および検査結果に応じた精密検査・専門医への受診勧奨を事業者に求めています。
2.がん検診等の受診環境の整備と両立支援の促進
労働者が安心して検診や治療を受けられる環境づくりが強調されています。
〇受診促進策:啓発ポスターの掲示や社内通知、特別休暇の付与、費用助成、自治体・医療保険者の検診案内など多角的な取り組みが例示されました。
〇治療と就業の両立支援:治療を受けながら働き続けられるよう、「治療と就業の両立支援指針」等に基づいた職場環境の整備や周知が明記されました。
3.デジタルツールとPHR(Personal Health Record)の活用
労働者が自発的に健康管理を行う観点から、事業者はデジタルツール等を活用し、生涯にわたる自身の保健医療情報(PHR)の把握に努めるよう労働者へ促すことが盛り込まれました。
4.健康経営視点の明確化と医療保険者との連携(コラボヘルス)
事業者が健康保持増進措置を「将来的に収益性を高める投資」として理解し、経営的視点から戦略的に実践すること(健康経営)が労働生産性向上の観点からも重要であると示されました。また、健診データの共有や比較分析等を通じた医療保険者との連携(コラボヘルス)の推進が強く促されています。
今回の指針改正を受けて、企業としては、(1)衛生委員会での協議と方針策定、(2)両立支援・受診勧奨の制度見直し、(3)外部資源・コラボヘルスの積極利用などの対応が求められます。まずは新しい指針の内容を確認し、自社としての取り組み方針について議論しましょう。
参考リンク
厚生労働省「「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」に関する公示 令和8年10月19日(月)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_76807.html
(大津章敬)

