進む企業のカスハラ対策とその実効性の確保

近年、カスタマーハラスメント(カスハラ)は従業の心身をむしばむ深刻な経営リスクとして社会問題化しており、10月からは企業にその対策の実施が求められています。そこで今回は、帝国データバンクの「カスタマーハラスメントに関する企業の実態調査(2026年9月)」の結果から、その対策の現状と、企業として押さえるべきポイントについて見ていきたいと思います。
(1)全体としての取り組み状況
カスハラの防止措置に関して「取り組みあり」の項目を見ると、全体では68.9%の企業が何らかの対策を行っています。しかし、大企業が82.6%であるのに対し、中小企業は66.5%にとどまっており、リソースや専門人材の限られる中小企業において対策の遅れが顕著です。

(2)具体的なカスハラへの対応策
具体的に実施している対応策の状況は以下のとおりとなっています。数値は、順番に「全体」「大企業」「中小企業」の順です。

  1. 従業員への企業方針・対応ルールの周知 37.8% 52.8% 35.2%
  2. カスハラを容認しない企業方針の策定 28.6% 40.7% 26.6%
  3. 相談・通報窓口の設置 27.2% 51.7% 23.0%
  4. 相談者の秘密保持・不利益防止 18.0% 31.5% 15.7%
  5. 事実関係の確認体制・手順の整備 18.0% 26.5% 16.5%
  6. 自社従業員による他社へのカスハラ防止 16.6% 21.4% 15.8%
  7. 対応内容の記録・保存(通話、メール、映像など) 15.9% 21.0% 15.0%
  8. 悪質なカスハラへの対処基準の策定(対応中止、退去要請、出入り禁止など) 14.1% 19.8% 13.1%
  9. 被害従業員への心身のケア 11.8% 17.2% 10.9%
  10. 外部機関・専門家との連携(警察、弁護士、警備会社、行政など) 11.7% 19.3% 10.4%
  11. カスハラ対応研修の実施 8.9% 18.6% 7.3%
  12. 再発防止策の実施(発生事案の検証、対応ルールの見直しなど) 8.1% 12.9% 7.3%
  13. 顧客・取引先への方針の周知(店頭掲示、ホームページへの掲載など) 6.8% 12.2% 5.9%
  14. カスハラ対応部署・担当者の設置 6.5% 13.6% 5.3%
  15. その他 2.3% 2.0% 2.3%

多くの項目において、大企業では組織的な体制整備が進んでいます。特に「方針・ルールの周知(52.8%)」「相談・通報窓口の設置(51.7%)」は半数を超えている一方、中小企業ではそれぞれ35.2%、23.0%と低く、セーフティネットの構築が急務です。但し、上位に並んだ施策は、「1. 従業員への企業方針・対応ルールの周知(37.8%)」「2. カスハラを容認しない企業方針の策定(28.6%)」「3. 相談・通報窓口の設置(27.2%)」と、基本方針の表明や受け皿づくりが中心です。

一方で、実務に直結する「悪質なカスハラへの対処基準の策定(14.1%)」や「対応内容の記録・保存(15.9%)」、「被害従業員の心身のケア(11.8%)」、「外部専門家との連携(11.7%)」といった実動的な対策の実施率は総じて低い水準にあります。方針や窓口を作るだけでなく、「実際に現場でどう判断し、どう従業員を守るか」という実効性を持たせることが、今後の人事の最大の課題といえます。約3割の企業が「特に取り組んでいない」と回答している現状を危惧し、自社の規模に関わらず、法的義務や社会的責任を見据えた総合的なハラスメント対策へのアップデートが求められています。


参考リンク
帝国データバンク「カスタマーハラスメントに関する企業の実態調査(2026年9月)」
https://www.tdb.co.jp/report/economic/20291026-kasuhara2609/

(大津章敬)