先行きが不透明な時代にもっとも重要なコンピテンシー

 5年位前から人事管理の世界ではコンピテンシーという考え方が流行している。「好業績者の行動様式」などと訳されることが多いこの概念であるが、最近は一時期のブームのようなものは去り、本格的な成果主義の導入に合わせ、採用や配置、評価、教育などの場面で実践していこうという機運が高まっている。より高い確率での成果の創出や人材の育成を考えれば、行動という先行指標で管理を進めるこの手法は、使い方を間違えなければ非常に価値は高いと考えている。

 

 そんな中、今の時代のビジネスパーソンに求められる、もっとも重要なコンピテンシーとは何かということを考えることがある。もちろん職種によって異なるのであろうが、それ以前に根源的に求められるコンピテンシーは「環境に適応し、短期間で新しい能力を身につける力」ではないだろうか。これは以前、慶応の高橋俊介さんを当社主催セミナーに講師としてお呼びしたときに、彼も指摘していたことではあるが、この先行きが見えない時代にはこの行動が取れるかどうかが、もっとも重要であると考えている。ドラッガーが「現代の経営」の中で「企業は環境適応業である」と書いたが、現代ではそれが1人1人のビジネスパーソンにまで求められている。

 

 しかし、世間を見ていると、このコンピテンシーが欠けている人材が目に付く。以前、まだまだ40歳そこそこであるにも関わらず、これまで20年間やってきた知識だけで、あと20年以上の職業人生を乗り切ろうと考え、まったく新しいことを覚えようとしない人材に出会ったことがある。もし経済環境が非常に成熟し、これから20年以上も従来と同じ環境が続くのであれば、それでも良いのかも知れないが、そんなことはあり得ない。あらゆる業界ではIT化やグローバリゼーションの進展、規制緩和などによって、そのビジネスモデル自体が大きく変容し続けている。好むか好まざるかに関わらず、変わるしかないのだ。もし変われないとすれば、地球環境の変化に適応できず絶滅した恐竜のように、絶滅の運命を辿ることになる。ある意味では現在の失業問題の根本にあるミスマッチの問題も環境への非適応に原因を求めることができるであろう。

 

 この問題を解決するためには、まずはすべてのビジネスパーソンが自らこの問題について意識を持ち、積極的な行動を起こすことが重要であるが、それと同時に企業においても社員のキャリア開発支援を行うことは、その社会的な責任において重要である。人事制度改革の現場に立ち会っていると、仕事の貢献度と報酬のバランスが崩れてしまっている含み損を抱えた人材が常に問題となるが、その背景には企業がその人材に対し、限定的な職務しか与えず、結果として特定のことしかできないつぶしが利かない人材を作ってしまったという要素があることが多い。一方では、エンプロイアビリティの開発を進めると人材が外部に流出してしまうのではないかという懸念を抱く企業も少なくないが、今の時代は個人のキャリア開発を実現する場を提供できない企業に優秀な人材が集まることはなくなっている。若い段階から組織的なキャリア開発支援を行うことが、結果として社員の企業に対するロイヤリティの向上を実現することに繋がるのではないだろうか。

 

(大津章敬)