エグゼンプト制度導入/時間外割増賃金の引き上げ等を検討~厚生労働省研究会

 先日の厚生労働省の発表にもあったが、本日の17時より「今後の労働時間制度に関する研究会」という新たな研究会が厚生労働省内に立ち上がる。東大の荒木教授や法政の諏訪教授など8人の大学教授が名を連ねているが、この研究会のニュースが本日の日経1面に大きく取り上げられていた。「『残業代ゼロ』一般社員も・厚労省方針、労働時間重視を転換」というタイトルであったが、それによれば今回は以前より一部で議論が行われていたエグゼンプト制度の導入が検討されているようである。

 

 エグゼンプト制度とは、日本の裁量労働制にのようにその職務の内容から見て、労働時間の管理が馴染まず本人の裁量に大幅に委ね、もっぱら成果で評価することが相当な職種について、公正労働基準法に基づく時間外手当の支給対象から除外(Exempt)するというアメリカの制度である。(参照:New Federal Labor Standard Act(FLSA)Overtime regulations[pdf])具体的な対象職務は、マネジメント職や経営計画に関する職務、学者や芸術家、コンピューター専門職、外勤営業職というように列挙され、更には部下の人数や最低給与なども定められている。裁量労働制は戦後に製造ラインを想定し制定された現行労働基準法の一部修正ではあったが、実際に導入を進めた経験から言うと、みなし時間の設定や他職種とのバランス、制度導入の手続きなどの点で何かと使いにくい面が多かった。今回は産業構造の変化を前提とした労働時間制度全体の見直しを前提として検討が行われるため、その内容には関心を持っている。

 

 ただ同時に時間外手当の割増率の引き上げも検討されているようなので、実務的にはこちらの方の影響がより大きいであろう。我が国の時間外割増率は25%であるが、欧米ではその倍の50%が主流であり、以前より著しく低いというような指摘がなされてきた。これは各国の労働観や政策的判断もあるので一概に論じることはできないが、今回の研究会では50%に向けた率の引き上げも当然に検討されるのであろう。多くの中小企業にとって、エグゼンプト制度はあまり関係がなく、単純に割増率の引き上げが大きな負担として圧し掛かって来る可能性が高いのかもしれない。以下に厚生労働省が発表した今回の研究会の趣旨・目的および検討事項を転載しておこう。

 

1. 趣旨・目的
 労働時間制度については、これまで、産業構造・企業活動の変化や労働市場の変化が進む中で、裁量労働制等弾力的な労働時間制度の導入などにより対応してきたところである。しかしながら、経済社会の構造変化により、労働者の就業意識の変化、働き方の多様化が進展し、成果等が必ずしも労働時間の長短に比例しない性格の業務を行う労働者が増加する中で労働者が創造的・専門的能力を発揮できる自律的な働き方への更なる対応が求められるなど、労働時間制度全般に係る検討を行うことが必要となっている。特に、労働時間規制の適用除外については、平成16年の裁量労働制の改正に係る施行状況を把握するとともにアメリカのホワイトカラー・エグゼンプション等について実態を調査した上で検討することが求められている状況にある。一方、週労働時間別の雇用者の分布をみると、いわゆる「労働時間分布の長短二極化」が進展するとともに、年次有給休暇の取得日数の減少及び取得率の低下傾向が続き、過重労働による脳・心臓疾患の労災認定件数も増加している。こうした状況の中で、今後の労働時間制度について研究を行うことを目的として、「今後の労働時間制度に関する研究会」(以下「研究会」という。)を開催する。

 
2. 検討事項
 本研究会においては、次に掲げる事項を中心として調査・研究を行う。

・弾力的な働き方を可能とする労働時間規制のあり方
・年次有給休暇の取得促進
・所定外労働の抑制

 

(大津章敬)