ベンチャー企業が成長過程で必ずぶつかる人材の問題

 今日の日経新聞ベンチャー面に「新興企業の8割『経営人材不足』3市場対象の調査」という記事が掲載されていました。これはリクルート・エックスが新興3市場の上場企業に対して行ったアンケート結果を紹介した記事でしたが、それによれば経営人材の不足感があるという回答が8割近くを占めたそうです。私もあるベンチャー企業の人事労務顧問を、その会社の創業2年目、従業員数が5名というときから受託させて頂いていますが、その会社でもこの人材の問題が会社の成長を止めてしまった時期がありました。


 この会社の社長は非常に優秀な研究開発者であり、新しい市場を作ってしまうような革新的な商品を自ら開発し、会社を大きくしてきました。しかし、社長1人で企業経営のすべてを仕切って、引っ張っていくというスタイルはいつか必ず限界を迎えます。通常は従業員が10人くらいになると、財務や人事など社内のマネジメントを任せられる人材が必要になる時期がやって来るのではないでしょうか。この会社でも研究開発職と同時にそういったマネジメント人材を採用したのですが、なかなかうまく行きません。ベンチャー企業の総務・財務というポジションは非常に守備範囲が広い上に、柔軟な対応が求められるという難しい職務ですから、適任の人材はなかなか労働市場にはいないのです。この会社の場合は、社長の生業から、組織としての企業に生まれ変わるこのタイミングで、本当に人材の問題に悩まされました。その後数年掛けて、この会社はそうした問題を乗り越え、新たな大ヒット商品を開発し、人の面も資金の面もかなり安定しました。今は客観的に見ても非常に強い会社になっています。今になって振り返ってみると、あのときに優秀な経営人材が採用できていれば、この会社はもっと早く成長することができただろうと思います。もっともあの苦しみがあったからこそ、社長の現在のマネジメントスタイルが確立されたのも間違いありません。一方で、税理士や社労士はこういった環境にあるベンチャー企業に対し、もっと積極的な支援を行い、その成長を後押ししていかなければならないとも思います。


 ちなみに記事とは関係ありませんが、この調査は対象企業577社のうち、回答はたったの67社。こんな少ないサンプル数の調査でも視点が良ければ日経も取り上げるのだなぁと感じました。


(大津章敬)