専門業務型裁量労働制の導入事例
裁量労働制とは、業務の性質上その遂行方法が労働者の裁量にゆだねる必要があり、労働時間の算定が困難な業務について、あらかじめ労働時間を定め、実際の労働時間が何時間であるかにかかわらず、みなし労働時間を労働したものとする制度です。(1990年から専門業務型裁量労働制、2001年から企画業務型裁量労働制が施行されています。)
この制度は従来あまり導入事例がなかったのですが、ここ数年、導入企業が急増しています。そこで今回は、実際に裁量労働を導入したある会社の運用状況について紹介します。
■第1回目(1998年)
対象労働者
研究職の主任クラス 専門業務型裁量労働制 約300名
みなし時間外手当(裁量労働手当)
1日1時間相当の時間外業務を見込んだ賃金(裁量労働手当)を支払い、原則としてそれ以上の時間外手当は支給しない。
労働者の状況
リストラによる人手不足もあって過重労働になり、健康を損ねる労働者が増加、労働者の有志が2001年4月から15回に亘り、職場のサービス残業の疑いを労働基準監督署に訴え続けた。
労働基準監督署の対応
調査に入った結果、実態は裁量労働ではなくサービス残業とみなされ、過去2年間に遡って100人超の労働者に平均150時間分の割増賃金、総額約4,500万円を支払うように是正指導を実施。
■第2回目(2002年10月)
対象労働者
人事、財務、広報、資材部門等の管理職手前の主任。
専門業務型約6,000人、企画業務型約1,000人。
みなし時間外手当(裁量労働手当)
1日1時間相当の時間外業務を見込んだ賃金を支払い、原則としてそれ以上の時間外手当は支給しない。変更点
1)一定期間残業が大幅に増加する者は対象労働者から外した。
2)非常な繁忙が予想される場合には、裁量労働制の適用除外として残業代を申請できる。
3)1日1時間分の残業代しか支給しない代わりに、半期のボーナスで1人当たり22万円~26万円の原資を用意して成果に応じて配分する。
厚生労働省への説明
担当常務が2002年6月から粘り強く厚生労働省に「このクラスのホワイトカラーの仕事はみな、企画や調査を含む」と説いて交渉。
労働基準監督署の対応
承認現在の状況
サービス残業及び過重労働が発生している疑いがある。非常な繁忙が予想される場合でも「時間内に仕事が終わらないのは能力がないから、仕事ができないからだ」という風潮があり、時間外手当を申請しづらい状況。対象労働者は、上司の指示に基づく納期のある仕事に追われているのが現実なので、裁量労働制に該当する裁量権があるかは疑わしいという話が出ている。しかし、今のところは労働基準監督署からの是正指導はされていない様子。
この会社が導入したように、他の企業でも事務系の管理職手前主任クラスに、裁量労働制を導入できる可能性はあります。しかし、あらかじめみなし労働時間を定めることはかなり困難であるため、実際の労働時間とそぐわないことが多く、結果として、サービス残業及び過重労働になってしまうことがあります。このサービス残業及び過重労働が発生すると従業員のモチベーションの低下や従業員の健康阻害のリスクが高まりますので、裁量労働制を導入するには充分な注意が必要です。
(日比彩恵子)