諸外国の労働時間法制の比較 

  ホワイトカラー層への労働時間規制について、厚生労働省がこれまでの労働時間重視の姿勢から方向転換し、現在は管理監督者に認められている労働時間適用除外の法制をホワイトカラー層にまで求める動きがあるということは、以前このブログにも記事としてご紹介しました。今回は、その続編です。5月29日に「第2回今後の労働時間制度に関する研究会」が催されたのですが、その時に諸外国の労働時間法制の事例研究が行われました。
 
  以下、厚生労働省が関係する独立行政法人に要請したその事例研究資料を元に、諸外国の労働時間法制について簡単な比較検証を交えたものをご紹介したいと思います。





  諸外国というのは、4カ国(アメリカ・ドイツ・フランス・イギリス)のことですが、この事例研究内容を見ると、各国ごとに労働時間に対する考え方の違いや規制の方法が異なるのが分かります。
 
■各国の制度運用の比較
 労働時間法制の適用除外制度を受ける労働者というのは、
1)職務の遂行や労働時間の決定に対する自立性
2)職務内容の責任や重要性
3)報酬の水準
 この3要件により判断されるようです。各国の比較ですが、
フランス:1~3のいずれも要件
アメリカ:概ね1~3が要件となってますが、3の要素がより具体的で強い
ドイツ  :1,2は要件ですが、3については考慮されるといった程度
イギリス:1のみ


 日本でも“管理監督者”については1~3いずれも要件要素となっていますが、3についてはアメリカと比べると抽象的な表現に留まっています。アメリカの場合、報酬は○○○ドル以上の者に適用する、というようにより具体的です。
 
■適用除外制度の適用範囲
 ドイツ :2%
 アメリカ:21%
 日本の管理監督者層の割合は12.1%(全労働者のうち部長・課長の締める割合)と、ちょうど中間の水準になっています。


■法の実効性確保との関係
 アメリカにおいては、この法規に違反した場合のペナルティが厳しく、また同様の立場におかれた労働者による集団訴訟、行政による民事罰としての罰金支払命令や訴訟提起システムがあります。これに対し、日本では行政による監督、本人による訴訟及び付加金制度のみで、アメリカの法実効性確保のシステムに比べると労働者側がかなり弱いというのが現状です。





  ところで、アメリカに至っては、この報告書にもあるように日本より労働時間規制の適用除外者が倍近くにも及んでいるのですが、欧米ではホワイトカラー層の働き過ぎや過労死の問題は大きく取り上げられていません。 今回の報告書にはその理由として、1)適用除外対象労働者は休暇の取得等の点でメリハリのある働き方をしていること、2)仮に彼等に長時間労働を強いたとしても、その会社からは退職してしまうというという指摘がなされています。背景には労働市場における転職のしやすさがあるということもありますが、それらの点が日本とは多いに違うようです。



  話はまた労働時間制度に関する研究会に戻りますが、この研究会でも長期休暇の取得のあり方が議題として上がってます。今の日本では、長期休暇が取りやすい労働環境というのは、業種・業態・会社規模ごとに異なりますが、今後長い時間をかけて見直されていく方向になるのではないでしょうか。


(杉本真理)