思い切って任せてみる

 本日は当社代表の佐藤澄男が毎週執筆しているウィークリーレポートより「思い切って任せてみる」というコラムをご紹介します。





 最近読んだ本に、「ウィーン・フィル 音と響きの秘密」(中野雄 著 文春新書刊)があります。ウィーン・フィルを知る上において非常に興味のある本でしたので、一気に読み通しました。

 

 その本の冒頭の中で、著者は「今まで聴いたウィーン・フィルの演奏のうちでどれが最高でしたか、と訊かれたら迷うことなくある場所で聞いた交響曲と答えるだろう」と述べていました。

 

 「こんなにすばらしい指揮者であったかと指揮者の楽屋へ向かう途中、ウィーンフィルの演奏者の一人に会い、そのすばらしい演奏をした指揮者を褒めたら、彼を褒めるなら、コンサートマスターとウィーン・フィルをほめてほしい、完全にわれわれのペースでやった。指揮者は指揮棒をもっていたが、なにもせず、はじめからおわりまでそれだけであった。といわれ、とうとうその指揮者訪問をやめた」

というくだりがありました。

 

 先日、地元著名楽団の演奏者と同席し、いろいろ話を交わす機会がありました。その時に聞いた話の中で、「その楽団で6~7年指揮者をしていた人が辞める際に、お別れの席で『一番いい演奏はどれだったか』との話になった。皆の意見はその指揮者が風邪をひき、ろくに練習もせず、本番でもほとんど指揮ができなかったときが一番良かったと言われた。」とのことでした。冒頭の話と一致しています。

 

 このことは企業全般でも言えることではないでしょうか。指示をされ、定められ、手取り足取りされるよりも、「楽団自体に実力がある」として思い切って自由にやらせることで、大きな成果を得ることができる場合もあります。もちろん、楽団自体、社員自体の能力が高い場合の話ではありますが…。

 

 ある労務コンサルタントは、「能力と意欲とをマトリックスで考えた場合、能力も意欲も高い人材はあれこれ指示することなく方向性だけ示して後はしっかり任せておいたほうがいい。あれこれ指示するのは、意欲はあっても能力のない人にすることで、相手のレベルを見て人を使うべきである」と言っています。まさしくそのとおりで、何もしないことのほうがいい結果を出せる場合が実際に多くあります。

 

 もちろん全体の把握は必要ですが、考えるべき点においては非常に参考となるのではないでしょうか。

 

(大津章敬)