複数就業者の事業所間の移動も通勤災害の対象となる方向
現在、国会に「労働安全衛生法等の一部を改正する法律案」(平成18年4月1日施行見込)が提出され、その審議が行われていますが、その中で複数就業者の事業場間の移動、単身赴任者の赴任先住居・帰省先住居間の移動についても、通勤災害保護制度の対象とすることが検討されています。
現行では通勤災害でいう通勤は、以下の通り規定されています。(労働者災害補償保険法第7条)
□労働者が、就業に関し、住居と就業場所との間を合理的な経路及び方法により往復すること(業務の性質を有するものを除く)。
□労働者が往復の経路を逸脱し、又は中断した場合には、逸脱又は中断の間及びその後の往復は通勤としない。
□ただし、逸脱又は中断が日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、逸脱又は中断の間を除き通勤とする。
今回の改正案では、以下のような要因により労働者災害補償保険制度の見直しが必要であると言う視点で検討が行われています。
□働き方の多様化等の社会経済情勢の変化の中で、必ずしも制度の創設当時に想定されていなかった問題への対応の必要性が生じているものと考えられること
□複数就業者や単身赴任者が増加してきている中で、これらの者が行う移動のうち、通勤災害保護制度において保護すべきものと考えられるものについて適切な保護がなされるよう、見直しを行うことが適当であること
これを受けて現段階では、複数就業者の事業場間の移動については、
□移動先の事業場における労務の提供に不可欠なものであること
□通常一の事業場から他の事業場に直接移動する場合には私的行為が介在していないこと
□事業場間の移動中の災害はある程度不可避的に生ずる社会的な危険であることと評価できること
等の要件に基づき、通勤災害保護制度の対象とすることとされています。また、複数就業間での移動も通勤災害の対象となった場合、先の就業場所の会社と、後の就業場所の会社のいずれが通勤災害の届出を行うかという実務上のポイントについては、後の就業場所の会社が提出するという考えが強まっているようです。
なお、後の就業場所の会社が複数就業を就業規則等で認めていない場合であっても、その通勤途中に災害に遭えば給付は行う方向で検討中。就業場所間の移動の際の逸脱・中断に関しては現状通りの考え方で決定となる方向が強まっており、また給付基礎日額の算定方法等については要検討とされています。
今回の法改正は非正規雇用者などを中心とした複数就業の増加など、近年の労働形態の多様化という実態に対応したものであり、評価できるのではないでしょうか。企業側としては、従業員の複数就業が増加しているという状況に対応するため、職務専念義務に関する就業規則の整備や、秘密情報・個人情報といった情報管理体制の構築などを進める必要があるでしょう。
参考:労働者災害補償保険法第7条
この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。
1.労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付
2.労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(以下「通勤災害」という。)に関する保険給付
3.2次健康診断等給付
2 前項第2号の通勤とは、労働者が、就業に関し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路及び方法により往復することをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。
3 労働者が、前項の往復の経路を逸脱し、又は同項の往復を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の同項の往復は、第1項第2号の通勤としない。ただし、当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない。
参考:提出時法律案該当部分[労働安全衛生法等の一部を改正する法律案]
(労働者災害補償保険法の一部改正)
第二条 労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)の一部を次のように改正する。
第七条第二項中「住居と就業の場所との間」を「次に掲げる移動」に、「往復する」を「行う」に改め、同項に次の各号を加える。
一 住居と就業の場所との間の往復
二 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
三 第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)
第七条第三項中「前項の往復」を「前項各号に掲げる移動」に、「同項の往復」を「同項各号に掲げる移動」に改める。
第八条第一項中「前条第一項各号」を「前条第一項第一号及び第二号」に、「同項各号」を「同項第一号及び第二号」に改める。
(労働者保護チーム)