割増率の引き上げは時間外労働の削減につながるのか?

 平成17年6月3日(金)に厚生労働省内において「第3回今後の労働時間制度に関する研究会」が開催され、労働組合側である以下の3名の方に対するヒアリングが行われました。
□日本労働組合総連合会 総合労働局長 総合労働局長 須賀恭孝氏
□全日本電機・電子・情報関連産業労働組合(電機連合)
                         書記次長/総合労働政策部門統括 成瀬豊氏
□JAM 副書記長/組織部門部門長 小山正樹氏
 
 この3名の方はヒアリングを受ける際に労働組合側の提案として以下のレジュメを厚生労働省に提出しています。今回はこのレジュメの概要についてご紹介したいと思います。 

 





厚生労働省「今後の労働時間制度に関する研究会」ヒアリングレジュメ
 
0.はじめに
(1)労働時間の現状
  ・「労働時間の二極化」長時間労働による労働者の健康問題
  ・仕事と生活との両立の困難さ
  ・「不払い残業」問題
(2)労働時間の喫緊の課題は「長時間労働の是正」
  労働時間と労働者の心身の健康、家庭生活、地域社会への参加など
  労働時間とそれ以外の時間の調和をどのようにはかるか
(3)労働時間の原則
  「1週40時間、1日8時間」の原則
  健康で文化的な生活の保障
  あらゆる労働者にとっての労働時間の原則
 
1.裁量労働制について
(1)裁量労働制の運用実績について
  職場での具体的取り組み
(2)企画業務型裁量労働制に関する2003年法改正について  
  ①制度を導入する事業場は大きく増加。  
  ②労使委員会の手続き緩和 
   ・手続きの緩和に対する評価
   ・労使委員会の委員提出:労働者からの信任手続きは不可欠。
   ・決議5分の4要件について、再検討すべき。
 
2.労働時間規制の適用除外について
(1)アメリカのホワイトカラー・イグゼンプション制度に関する調査報告  
  ①日米では労働時間法制をはじめ、意識・文化・慣行などさまざまな点で相違がある。
  ②アメリカのイグゼンプトの範囲は、日本の適用除外の範囲よりも広い。
  ③イグゼンプト対象者に関する議論は、「働き方をめぐる問題」ではなく、「コスト問題」。
  →アメリカのホワイトカラー・イグゼンプションの制度を日本に導入することは、木に竹を
   接ぐようなものであり、行うべきではない。
(2)適用除外について
  ・これ以上、適用除外を拡大する必要性はないと考える。
  ・適用除外についての検討は、ドイツやフランスも参考にすべき。 
 
3.管理監督者について
(1)管理監督者の範囲が明確ではない。→拡大解釈の実態
(2)管理監督者等の適用除外者の健康問題
  →労働時間の把握、健康確保措置、苦情処理の仕組が必要
(3)労働基準法第41条
  「労働時間、休憩および休日に関する規定」からの適用除外
  ・適用を除外してよいものは何か
  ・適用除外者の代償措置の検討
(4)労働時間規制の適用除外について
  ・対象者を拡大すべきではない
   現行法で十分足りる
 
4.年次有給休暇の取得促進
(1)要員の適正配置、業務遂行のあり方も含めて、年休取得促進についての労使協議
(2)家族の病気・看護休暇、配偶者出産休暇(最低5日)の新設など、各種休暇の拡大
 
5.所定外労働の削減
(1)時間外割増率の引き上げ
  時間外50%、休日100%、深夜50%に
  
6.そのほか
 「特別条項付き協定」について
   特別条項付き協定を適用する場合の上限時間の設定についても検討を。
 
  ※法定労働時間を超える時間外労働及び法定休日における休日労働を行わせるため
   には、労働基準法第36条で時間外労働及び休日労働に関する協定(いわゆる「36協
   定」)を締結し、限度時間を守らなければなりません。しかし、特別の事情が予想され
   る場合には特別条項付き36協定を締結することにより、一定期間(1年間に6ヶ月が限
   度)についての延長時間は限度時間を超えることができます。





 

 以上、提案されている内容の中には、所定外労働の削減対策として「割増率の引き上げ」について言及されていますが、はたして割増率の引き上げが本当に所定外労働の削減につながるのでしょうか?私は必ずしも割増率引き上げ→所定外労働削減とはならないと考えます。確かに割増率を引き上げれば、使用者は人件費負担増を避けるために所定外労働そのものを減らそうとしたり、ワークシェアリングなどの活用を通じた労働時間の適正化を検討することになるでしょう。

 

 現実的な問題として、基本的に業務の絶対量は変わりません。時間外労働の削減に向けて業務内容の改善は欠かせませんが、本質的な改善を行うためには現状より多くの従業員を雇用し、業務の平準化を図ることが必要となるでしょう。しかし、少子化による労働人口の減少を前に、十分な労働力の確保が難しい時代が忍び寄っています。よって、この問題を解決するためには高齢者や女性などの活用や、ニートなどの問題が深刻化している若年労働者の就労意識の向上、更には外国人労働力の導入といったより根本的な課題に国家として取り組んでいく必要があるのではないでしょうか。こうした根本的な対策を行わず、割増率の引き上げと言った表面的な対策を議論したところで、サービス残業強化に繋がるだけであると思わざるを得ません。

 
 現在、厚生労働省で行われている「今後の労働時間制度に関する研究会」では、非常に多くの問題提起がなされていますので、これからも動向に注意を払う必要がありそうです。

 

(志治英樹)