公益通報者保護法施行と内部告発制度の運用

 公益通報者保護法が2006年4月より施行されます。今回はこの法律がどのようなものなのか、簡単な説明を致します。
■目的
 公益通報者を保護することで、国民の生命や身体その他の利益の保護にかかわる法令の規定の遵守を図り、もっては国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資すること。
■公益通報の対象
 個人の生命または又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保そのほか国民の生命・身体・財産その他の利益の保護にかかわる法律として別表(※1)に規定する罪の犯罪行為の事実があった場合。
 ※1
 刑法・食品衛生法・証券取引法・JAS法・大気汚染防止法・廃棄物処理法・個人情報保護法・その他政令で定める法律(※2)
 ※2
 商法、労働基準法、健康保険法、厚生年金保険法ほか
■公益通報者の保護の内容
・公益通報をしたことを理由とする解雇の無効
・労働者派遣契約の解除の無効
・その他不利益な取扱(降格・減給・派遣労働者の交代の要請等)の禁止
■通報先と保護要件
・事業者内部
 ①犯罪の事実が生じていること
・行政機関
 ①犯罪の事実が生じていること
 ②①または犯罪の事実が生じていると信じるに足る相当理由があること
・事業者外部
 ①犯罪の事実が生じていること
 ②①または犯罪の事実が生じていると信じるに足る相当理由があること
 ③次の一定要件のいづれかを満たしていること
  イ)内部通報では証拠隠滅の恐れがある
  ロ)内部通報後20日以内に調査を行う旨の通知がない
  ハ)人の生命・身体への危害が発生する恐れがある  


 この法律では一定の法的保護を与える内部告発の範囲とその手続きが定められているのですが、内部告発に関しては先日、富山地裁より注目すべき判決が出されましたので、以下で簡単に紹介しましょう。



【トナミ運輸事件】(富山地裁判決H17.2.23)
■概要
 そもそもの発端は、トナミ運輸(以下会社)の従業員Tさんが、自社も関わる運輸業界の闇カルテルをマスコミに告発したことから始まります。この告発をきっかけに、その後は運輸省も動き出し、違法運賃はある程度是正されるに至るのですが、この一件から会社はTさんに対してその報復めいた人事や処遇を始め、Tさんを退職に追い込もうとしました。給与は55歳にして手取り約18万、また退職勧奨も半端ではなく、夜を徹して上司に自宅で説得させられたり、それでも承諾しなければ、暴力団の名前を出して脅すなど、半端なものではなかったそうです。しかもそれは、大よそ30年と長きに渡る期間です。そこで、Tさん(以下、原告)は会社(以下、被告)に対し、謝罪と慰謝料請求を求めて裁判を起こしました。
■判決
 平成17年2月23日の富岡地裁の判決は、原告の内部告発には正当性があるとして、被告の原告に対する不当な処遇に対しえは不法
 行為に基づく損害賠償義務があるとしました。(原告勝訴)
■その後
 この判決の後、一度は被告側が上告しようとするのですが、それを取りやめ、内部告発者を保護するための「社内通報規程」を制定し、「判決を真摯に受け止め、今後施行される見通しの公益通報者保護法に則した社内環境作りをしていきたい」と社内外に表明しました。


 この判決での注目点は、賃金や昇格といった企業の「人事裁量権」とされていた事項を、公益通報者保護法の施行前に先駆けて、公益通報を理由に不利な取り扱いを行えば損害賠償の対象となりうると示した事ですが、この会社にとっては、もはや金銭的な損害だけでなく、社会的イメージも大いに損なう結果となりました。


 内部告発は企業の内部の問題を解決するための大きな手段でありますが、これが社内に留まらずマスコミなどへのリークに繋がれば、必要以上に大きな企業へのダメージを与える危険性を持っています。よって今後は、コンプライアンス対策室の設置などを通じ、積極的に社内で内部通報を受ける体制を構築し、社内の自主的な解決を進める必要があるでしょう。


 またこの件に関しては、先日内閣府が「公益通報者保護制度ウェブサイト」を立ち上げましたので、是非ご参照ください。


(労使コミュニケーション)