年俸制対象者への割増賃金支給の必要性

 成果主義の人事諸制度の導入が進められるにつれ、年俸制の導入事例も増加してきています。年俸制に関しては「割増賃金の支給が必要ない」というような意見を耳にすることがありますが、本当にそうなのでしょうか?

 

 結論から言えば、年俸制適用労働者であっても、時間外労働や休日労働を行わせた場合には、原則として、割増賃金を支払わなくてはなりません。年俸制とは、事前に年間の賃金額が決定されていることから、時間外労働や休日労働を行わせた場合は別途、割増賃金の支払いが必要ではないと思われがちですが、年俸額は通常、所定労働時間の労働に対する賃金として定められているため、時間外労働などに対する賃金が含まれているとは考えられないからです。わが国において、年俸制は当初、管理監督職を中心にその導入が進められたため、結果的に割増賃金の支給が行われず、それがいつの間にか年俸制=割増賃金は不要という誤解に繋がっているものと思われます。そもそも年俸制は特別な給与決定形態ではありません。その給与決定の基準となる期間が、1時間の場合は時給、1ヶ月の場合には月給、1年間の場合には年俸となるだけであり、年俸だからといって特別な法的取り扱いがなされる訳ではないのです。

 

 ただし、年俸額のうちいくらかが割増賃金相当額なのか明確に定められている場合は、実際の割増賃金額がその割増賃金相当額に達するまでの時間外労働などに対して、改めて時間外手当を支払う必要はありません。この点について行政解釈では「一般的には、年俸に時間外労働等の割増賃金が含まれていることが労働契約の内容であることが明らかであって、割増賃金相当部分と通常の労働時間に対応する賃金部分とに区別することができ、かつ、割増賃金相当部分が法定の割増賃金額以上支払われている場合は労働基準法第37条に違反しないと解される」とされています。(平12.3.8 基収第78号) しかし、「年俸に割増賃金を含むとしていても、割増賃金相当額がどれほどになるのかが不明であるような場合及び労使双方の認識が一致しているとは言い難い場合については、労働基準法第37条違反として取り扱う」とされています。(同行政解釈)

 

(日比彩恵子)