労働者性判断と当事者意思

 表面上、「一人親方」や「外注」などの身分であっても、一律に労働基準法や労災保険法上の労働者でないと結論付けることは難しいと言うことをご存知の方も多いかと思います。先日、外注作業員の労災適用について問い合わせがあり調べていたところ、判例内に興味を引く内容を見つけました。

 

 労働基準法上の『労働者』性の判断については、『横浜南労基署長(旭紙業)事件』という車持込み運転手の労働者性について争われた代表的な判例があります。

 

 この判例では、「(運転手は)業務用機材であるトラックを所有し、自己の危険と計算の下に運送業務に従事し」、「(会社は)業務の運行に関し、特段の指揮監督を行っていたとはいえず、時間的・場所的な拘束の程度も、一般の従業員と比較してはるかに緩やかである」点、また、「報酬の支払方法、公租公課の負担等」の点からも、この運転手を労働者に該当するものではないと結論付けています。

 

 労働者性については「使用従属関係の有無」により判断され、一般的に以下の項目が基準として挙げられています。
 ①業務遂行上の指揮監督関係の存否・内容
 ②時間的・場所的拘束性の有無・程度
 ③業務用機材の負担関係
 ④報酬の支払条件・方法
 ⑤仕事の依頼・業務従事の指示に対する許諾の自由
 ⑥労務提供の代替性の有無
 ⑦公租公課の公的負担関係
さらに、補完要素として
 ⑧機械・器具の負担関係
 ⑨事業者性の有無・程度を示す事情や従属性の程度
などが、加わることがあります。

 

 興味を引かれた点とは、この事件の第二審における東京高裁の判決内にありました。それは、労働者か否かの判断が相当困難な場合に、「できるだけ当事者の意図を尊重する方向で判断すべきである」との部分です。もちろん、「法令に違反していたり、一方ないしは双方の当事者(殊に、働く側の者)の真意に沿うと認められない事情がある場合は格別、そうでない限り」との条件付きではありますが、当事者意思の入り込む余地を認める判断があるとは驚きでした。
 
 働き方の多様化が指摘される昨今、旧来の「一人親方」や「外注」以外にも雇用契約上、様々な形態が増えてくることが予想されます。その中には現在の労働者性の判断には収まりきらないらないものが出てくることも考えられます。この「当事者意思」という論点は、客観性に乏しく、「基準」としては十分な機能を果たせるか疑問が残りますが、今後、無視できない視点であることも感じました。

 

(労働契約チーム)