同一人に対して変形労働時間制と裁量労働制は併用できるのか?

  近年、裁量労働制の導入が多くの企業で進められていますが、実務上は、裁量労働制と1年単位の変形労働時間制を併用ができるかという点で問題となることが多くあります。結論から言えば、同一人に対して変形労働時間制と裁量労働制は同時に適用できないため、既に変形労働時間制を採用している事業所において裁量労働制を導入する場合には、注意が求められます。

 

 そもそもなぜこの両制度を併用することが認められないのでしょうか?法律ならびに通達を確認する限り、「併用不可」と明記されているものはありません。しかし、立法趣旨に基づき判断すると、変形労働時間制は「あらかじめ(使用者が)労働日・時間数が定められるもの」、裁量労働制は「使用者が(労働時間の決定が困難なため)時間配分等を労働者に委ねるもの」となり、制度上相容れないものであることが分かります。

 





(通達:1年単位の変形労働時間制)
【労働時間の特定】一年単位の変形労働時間制を採用する場合には、労使協定により、変形期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間を具体的に定めることを要し、使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更するするような制度は、これに該当しないものであること・・・(平六・一・四 基発一号、平一一・三・三一 基発一六八号)

 

(通達:専門業務型裁量労働制)
【趣旨】昭和六十三年の法改正により創設されたものであり、その対象業務については、従来、研究開発の業務その他の業務であって、当該業務の性質上その遂行の手段及び時間配分の決定等に関し具体的な指示をしないこととするものとして労使の協定で定める業務としたが・・・(平六・一・四 基発一号、平一二・一・一 基発一号)





 

 この件に関して労働局に確認したところ、「制度の併用について法律、通達共に明記したものはないが、労働局内の内部文章は存在する」との返答がありました。内部文章であるため実物を確認することはできませんでしたが、裁量労働制が開始されたのと同時にそうした内部文章が作成されているようです。

 

(労働時間チーム:志治英樹)