雇用契約終了時の覚書の必要性

 労働契約締結にあたっては、労働基準法第15条の規定により、「労働契約の期間、休日休暇、残業の有無、賃金」等の労働条件については「雇用契約書」「労働条件通知書」という形式で書面を交付し、明示することとされています。また、業務上知り得た情報の秘密保持のために「誓約書」の提出を求める会社も多く見られます。


 しかし、雇用契約の終了時の手続きとしては労働基準法第22条に労働者が請求した場合の退職証明書の発行が定められている程度で、積極的な対応を行っている例というのはこれまであまり見られませんでした。しかし、退職時における退職理由、賃金未払等のトラブルが急増しています。このようなトラブルを防ぐために、退職届の提出や、退職時諸手続の十分な説明が必要であるのは言うまでもありませんが、最近は覚書により労働者使用者双方の意思確認をして、積極的に退職後のトラブル防止に努める事例が増加しています。


 この覚書ですが、通常、以下のような項目を確認するように設計します。
1.退職の経緯
 ①退職日
 ②退職理由
 ③退職申出日
 ④退職申出者
2.守秘義務
3.未消化の有給休暇の処理について
4.退職金
5.退職後の債権債務がないことの確認
6.労働問題一切について守秘義務を負うことの確認


 1の退職の経緯に関しては、自己都合であることを明記することにより、退職理由に関するトラブルを防ぐという点がポイントとなります。また2の守秘義務に関しては、在職中知り得た情報(各種規定類・マニュアル・事務処理方法・報告書・通達資料・電子メール・人事に関する情報・個人情報等)について、一切の漏洩の禁止と退職日までの持ち出しを禁止し、顧客情報等の漏洩を防ぐ必要があります。3の未消化の年休、4の退職金、5の債権債務の確認の各項目については、労使間に未払賃金等の債権債務がないことを確認し、退職後のトラブルに備えています。


 項目としては自社にあわせて追加削除されれば良いでしょうが、最近はこういった積極的な対応を取ることによって、増加する退職時のトラブルを解消しようとする試みが増えています。


参照条文:
労働基準法第15条第1項(労働条件の明示)
 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
労働基準法第22条第1項(退職時等の証明)
 労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。


(労働契約チーム)