配置転換を行うための要件
最近、拠点の統廃合や事業のリストラクチャリングによって、大規模な配置転換を行うようなケースが増えています。この配置転換ですが、どのような根拠によって行われているのでしょうか。通常の労働契約のように、職種や勤務場所を限定するような特約がない場合には、「労働契約はその労働力の使用を包括的に使用者に委ねることを内容とするものであり、個々の具体的労働を直接約定するものではないので、使用者が給付すべき労働の種類、態様、場所などについてこれを決定する権限を有する」(昭和42年7月21日三楽オーシャン事件など)との判決より、職種、勤務場所の限定がない限りは、使用者は配置転換を命ずることができるとしています。ただし、職種を限定しない雇用契約なので配置転換を自由にできるという訳ではなく、「労働の種類についても従事すべき職務の範囲もしくは職種も労働契約の内容であり、その変更は労働条件に影響を及ぼすので、法的根拠が必要である」(昭和48年9月11日 日本触媒化学工業事件)とあるように、労働契約上の根拠がなければならないとしています。よって、特に職種や勤務場所を限定する特約がない場合については、就業規則に「業務上の都合で、転勤、配置転換を命ずることがある」旨の規定があれば、本人の個別の同意なくとも配置転換を行うことができるということになります。ただし、配置転換や転勤について、いくら就業規則に規定として記載してあるといっても
①業務上必要性のないもの
②合理的理由のないもの
③労働条件が著しく低下するもの
④職種・勤務場所について合理的な予想範囲を超えたもの
⑤技術・技能の著しい低下になるもの
⑥私生活に著しい不利益を生ずるもの
⑦不当労働行為あるいは差別的待遇に当たるもの
である場合は、使用者は労働者の同意なくして配置転換や転勤をさせることはできません。
一方、職種や勤務場所を特定する特約がある場合については、「一般に労働者をその職種に限定して雇い入れた場合は、労働契約上労働者の提供すべき労務の種類や内容がこれにより特定されることとなり、あとの職種の変更は、当事者双方の明示もしくは黙示の合意によるべく、使用者が一方的命令により労働者に対し、他の職種への異動を命じ異種の労務を要求することはできない」(昭和43年4月24日 日野自動車事件)との判例が示すように、職種を限定して雇用した場合は本人との合意なしに配置転換はできないとされています。
(神谷篤史)