労働契約法 報告書に見る注目事項[その4 採用内定]

 わが国では新規学卒者を中心に就労開始前に「採用内定」という段階を経ることが一般的となっています。この採用内定者という身分は、就職活動の早期化の影響から1年近くという長期間になる場合が少なくありませんが、法律上はあいまいな立場であり、内定取消などの扱いについては、これまで判例解釈に頼ってきました。今回の「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」報告では、その点について、立法上でルールを定める方針が述べられてます。


□採用内定と労働基準法の関係
 採用内定期間中における労働基準法第20条(解雇の予告)の適用を除外する。


□留保解約権の明文化と採用内定取消
 採用内定に際して留保解約権の存在とその事由が書面で明示されている場合には、その事由に基づく留保解約権行使による採用内定取消については、権利の濫用に当たらず有効であるものとする。但し、当該留保解約事項の内容が、解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的である必要がある。また、採用内定当時に使用者が知っていた事由および知ることができた事由による採用内定取消は無効とすべきである。


 内定取り消しに関する重要判例として大日本印刷事件があります。この中で最高裁は内定者について、「解約権留保付であるとはいえ、卒業後の就労を期して、他企業への就職の機会と可能性を放棄するのが通例であるから、就労の有無という違いはあるが、採用内定者の地位は、一定の試用期間を付して雇用関係に入った者の試用期間中の地位と基本的に異なるところはない」と判示しています。これにより今では、採用内定者を労働者に準ずる者として保護するため、採用内定者と使用者との間には解約権留保付労働契約が成立しているという考え方が主流となっています。その上で、解雇予告の除外について、「試みの試用期間中の者については14日を超えて引き続き使用されるまでは同条の適用がないこととの均衡がとれていない」とする報告書の内容は納得性が高いと思われます。


 さらに今回の労働契約法の制定の大きな目的の一つである紛争予防への対応としての書面明示を求める傾向がここでも現れています。立法後の各社の実務面の課題としては、解約事由の具体的な検討や、採用関連書類の整備が重要となってくるでしょう。また、解約権留保付労働契約は、書面による採用内定通知の交付と誓約書の提出があいまって成立するとの考え方が主流ですが、標準的手順に合致しない中途採用も含めて自社の採用手続手順を見直す必要が出てくるかもしれません。





参照条文:
労働基準法第20条(解雇の予告)
 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
2 前項の予告の日数は、1日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
3 前条第2項の規定は、第1項但書の場合にこれを準用する。


(労働契約チーム)