労働契約法 報告書に見る注目事項[その6 休職・服務規律・懲戒・昇進昇格降格]

 本日は「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」報告の中から、労働契約の成立に関わる問題として「休職」、「服務規律・懲戒」、「昇進昇格降格」について紹介します。内容的には、昨今の様々なトラブルが発生しているポイントについて、幅広く意見が出されています。


□休職
・休職期間の満了により労働契約が自動的に終了することについては、解雇に関する法規制の潜脱にならないように留意する必要があるが、休職期間満了により労働契約が自動的に終了する制度を無効にすることは、使用者に解雇を猶予する期間としての休職期間を設ける動機付けを失わせ得ることから適当でない。
・休職期間の設定については、休職事由は多岐にわたり、これに応じた休職期間の適切な長さも様々であるため、休職制度の実態を調査した上でこれを踏まえ慎重に検討することが必要である。
・休職制度がある場合はこれに関する事項を労働基準法第89条に定める就業規則の必要記載事項にも追加することが適当である。


 休職期間満了については、解雇であるとの見解を示しながら、休職期間の満了による労働契約の自動終了については、労働者にとって解雇の猶予期間を使用者側から与えられるという利益を得られるとのことから、制度として設けることについては不合理はないと結論付けています。しかし、休職期間の長さの設定については使用者側に裁量権を認めながらも、公序良俗に反しないように慎重に検討することを要求しています。


 休職期間の取り扱いについてはこれまで使用者側で行ってきた取り扱いと大きな差異はないものと思われます。しかし、最近は休職事由については多岐にわたり、また複雑化してきているため、休職期間の長さや一定期間内に再度休職事由に該当した場合の休職期間の通算をするかしないか、休職事由に該当しなくなった場合の職場復帰について、復帰前の職場に復帰させるのか、また別の職場に復帰させるのかなど、社内で議論する必要があるでしょう。


□服務規律・懲戒
・使用者が労働者の非違行為について当該労働者に懲戒処分を行おうとする場合には原則として就業規則に規定があることが必要である。しかし、規定された懲戒事由以外の事由について懲戒を行うことができないとすることの妥当性や就業規則の作成義務がなく、現に就業規則等による懲戒規定のない事業場について懲戒を行うことができないとすることの妥当性については議論の余地がある。
・就業規則作成義務のない小規模事業場においても、個別の労働契約等で懲戒の根拠が合意されていれば、使用者は懲戒権を行使しうることは問題にない。
・恣意的な懲戒が行われないようにするには、雇用関係における権利濫用法理を一般的に法律で定めることが適当である。非違行為と懲戒処分の内容との均衡については、その旨を法律で明らかにする必要がある。
・懲戒に伴う退職金の減額・不支給についてはそれが労働者に与える影響と労働者の非違行為との均衡を考慮して決定すべきことを指針等で規定すれば足りると考えられる。
・懲戒解雇、停職(出勤停止)、減給のような労働者に与える不利益が大きい懲戒処分については、書面で労働者に通知させることとし、これを使用者が行わなかった場合には懲戒を無効とすることが適当である。
・懲戒は労働者の弁明を聴取した後でなければできないとすることについては、弁明の聴取を促進することは適当であるが、これを行わないと懲戒を一律に無効とすることについては、懲戒処分に時間を要することなどの弊害が生じうることから適当でない。まずは書面通知によって、懲戒の理由等に納得がいかない労働者が自ら使用者に対して不服申し立てをしたり、紛争解決制度を利用したりするための材料を提供することが重要と考えられる。


 懲戒については、これまでの見解と同様、就業規則等の規定にない事由での懲戒は原則できないとの見解に立っていますが、就業規則がなければ必ずしも懲戒処分ができないのかということに関しては、懲戒根拠の個別同意を得られれば必ずしも不合理はないと解されています。しかしそういった規定や個別同意がない場合には懲戒処分を行えないということについては必ずしも懲戒の必須条件とはせず、議論の余地があるとしています。


 懲戒を行う場合には書面での本人への通知が必要であるとの見解が示されたことで、今後は懲戒を行う際の書面通知が実務上のポイントになりそうです。本人の弁明を聴取した後にしか懲戒処分ができないことについては、本人の弁明を聴取するを推進するにとどまり、必ずしも本人の弁明聴取を懲戒の必要条件とはしていません。しかし、懲戒処分については、その確固たる証拠が必要であることから、本人に事実確認を行い、客観的証拠を根拠に懲戒処分を適用することが懲戒規定運用において求められます。


□昇進昇格降格
・人事考課については、その客観性、公平性を確保するための方策が重要となる。しかし、人事管理制度、人事考課については企業における実態が多様であって、近年では制度を変更する企業も多いため、今後の人事考課制度を見据えつつ、方策を慎重に検討するべきである。
・昇進昇格降格については、一般に使用者の広範な裁量権が認められるとされているが、人事権の濫用は許されないことを明確にすることが適当である。さらに職能資格制度の引き下げとしての降格については、就業規則の規定等の明確な根拠が必要であるとすることが適当である。しかし細部にわたって規制することは困難かつ不適当であり、制度内容の合理性や権利濫用法理によるルールにとどめるべきである。職能資格の引き下げについては、すでに裁判例において就業規則の規定等の明確な根拠が必要とされており、これについては法律でルールを明確化することが適当である。


 人事考課については使用者の裁量権を認めつつも昇格、昇進、降格の取り扱いについては慎重を期すことを求めています。また降格については、懲戒事由と同様、就業規則等に根拠を求め根拠のない降格は無効とされる可能性が高いでしょう。人事考課の取り扱いについては、公平性、客観性を確保するため、社内で慎重に議論することが求められています。


(労働契約チーム)