労働契約法 報告書に見る注目事項[その7 配置転換・出向・転籍]

 厚生労働省の「今後の労働契約のあり方に関する研究会」による報告書の中から、今日は配置転換・出向・転籍について眺めてみたいと思います。
□配置転換
・権利濫用法理の法律上への明文化
・使用者が講ずべき措置の指針等への具体化
・転居を伴う配置転換について、その可能性がある場合にはその旨を明示し、併せて就業規則の必要記載事項とする。


 従来は、どのような配置転換が権利濫用とみなされるのか、また使用者が講ずべき措置の範囲はどこまでかという点について、法律による明文化がなされていませんでした。今回はこれを法律・指針等といった形で明文化し、適法・違法の線引きをより明確にすべきとの問題提起がなされています。また、本人が不利益を受ける可能性が高いとされる転居を伴う配置転換については、事前の明示が義務化されることになりそうです。
 
□出向
・権利濫用法理の法律上への明文化
・個別合意、労働契約、就業規則または労働協約等に基づくことが必要であることを法律上に明文化
・出向の可能性がある場合にはその旨を明示。併せて出向期間中の労働条件に関して出向労働者の利益に配慮した詳細な規定が設けられることが望ましい。
・出向先・元との権利義務関係を明確にするため、別段の合意のない場合は、出向期間中の賃金は出向直前の水準をもって出向先・元が連帯して労働者に支払う義務があるとの任意規定等を置く


 出向についても、権利濫用法理、就業規則への記載の必要性に関する明文化が想定されています。その他、出向期間中の賃金の支払いについて出向先・元の双方に権利義務を負わせる規定の制定が検討されています。


□転籍
・転籍の際は、労働者に説明をした上で同意を得なければならない。
・書面交付による説明がなかった場合や転籍後に説明内容と異なることが明らかとなった場合は、転籍を遡及的に無効とする。


 転籍について個別同意が必要であるという点については、これまで明文化されていませんでした。この点についても、その雇用関係変動の重大性から、個別同意の必要性について明文化することを提起しています。これがなかった場合や説明内容と異なる事象が明らかとなった場合、転籍自体が遡及して無効とされます。なお転籍に関しては、商法改正により平成13年4月1日に導入された労働契約承継法との兼ね合いも重要です。


 それぞれを見渡して総合的に言えることは、これまで明文化されていなかったルールの法定化がポイントとなっているということです。内容としては、出向の際の就業規則への規定、転籍時の個別合意など、実務上はこれまでと比べ取り立てて目新しいものは見当たりません。ルールの新設というよりは、これまで法文上不明確であった部分を明確化することで、労使間の紛争を未然に防ぐことが目的となっています。現段階で上記のルールについては、強行規定にはなるものの、罰則・監督指導は行われないとされており、運用の方法によっては形骸化も否めません。労使双方にとって納得のいく透明で公正なルールづくりが望まれます。


(労働契約チーム 武内万由美)