労働契約法 報告書に見る注目事項[その8 雇用継続型契約変更制度]

 厚生労働省の「今後の労働契約のあり方に関する研究会」による報告書の中から、今日は「雇用継続型契約変更制度」について眺めてみたいと思います。


□雇用継続型契約変更制度[新設]
 労働契約の変更の際に、労働者が雇用関係を維持した上で変更の合理性を争うことを可能とする制度。これについては、2つの案が提唱されている。
[案1]
 使用者から労働者へ変更を申し込んで協議をする。これが整わない場合、使用者は労働者へ労働契約変更の申し入れに加え、解雇通告(一定期間内に労働者が応じない場合)を同時に行う。労働者はこれに対して異議を留めて承諾をしつつ、雇用を継続したまま当該変更の効力を争う。
[案2]
 変更に合理的事情があり、かつ変更内容も合理的であれば、使用者による変更を認める。(まずは契約の継続を保ち、その上で争う。)


 例えば、入社の時点で仕事の内容や勤務地が特定されるような場合に、使用者が労働者に対して職種・勤務地の変更を申し入れることは労働契約の変更に該当します。この変更命令に従わない場合には解雇するという意思表示は「変更解約告知」と呼ばれ、労働者に対して実質的に不利益を甘受させうる強大な力を持っています。この取扱いでは、使用者の命令に従わなかった場合には解雇され、労働者としては労働契約終了後に事後的に解雇の合理性を争うという手段しか残されておらず、労働者が不安定な立場に立たされるという問題がありました。


 今回新設される見込みである案1、2については、いずれをとっても雇用契約を途切れさせることなく労働契約変更の合理性を争うことができるという、画期的な制度となっています。1については労働者が異議を留めた承諾をした場合、解雇の通告の効力は生じないことになります。そのため労働者としては、労働契約を維持しつつ、その合理性について確認の訴えなどを提起することができます。2については、変更に合理性があれば変更自体は認めるという制度です。これも異議があれば労働契約を維持しつつ、その合理性を争うことになります。ただしこれは、使用者に一方的な変更権を与えることとなるため、相応の手続き・代償措置が必要とされています。


 雇用維持型契約変更制度が、労働者に有利に働くか、または使用者のとって使い勝手の良いものとなるか、更なる慎重な議論が必要とされています。また一番の判断要素となるであろう実際の労働契約変更の合理性判断については判例の集積を待つとされており、この点についても、法律の整備だけではなく、指針等の形で早期に基準が示されることが望まれます。


(労働契約チーム 武内万由美)