労働契約法 報告書に見る注目事項[その9 労働契約に伴う権利義務関係]

 労働契約においては、第一次的には労働者の労働提供義務と使用者の賃金支払い義務が存在していますが、今回は厚生労働省の「今後の労働契約のあり方に関する研究会」による報告書にみる、労働契約に伴う付随的義務についてまとめてみます。


□労働者の付随的義務
・兼業禁止義務
 労働者の兼業を禁止したり許可制とする就業規則の規定や個別の合意については、やむを得ない事由がある場合を除き、無効とすることが適当である。
・競業避止義務
 労働者の在職中の競業避止義務については、民法の一般原則に委ね、特段の規定を設けないことが適当である。退職後の競業避止義務については、書面による個別の合意、就業規則または労働協約による根拠が必要であることを法律で明らかにすることが適当である。
・秘密保持義務
 労働者の在職中の秘密保持義務については、不正競争防止法の定めおよび民法の一般原則に委ね、特段の規定を設けないことが適当である。退職後の秘密保持については、営業秘密に関しては既に不正競争防止法の規定があり、これにより営業秘密の保護の要請と職業選択の自由との調整が図られていることに鑑み、同法の保護する範囲以上に義務を負わせる場合には、労使当事者間の書面による個別の合意、就業規則または労働協約による根拠が必要であることを法律で明らかにすることが適当である。


□使用者の付随的義務
・安全配慮義務
 労働者が労務提供のため設置する場所、設備若しくは器具等を使用し、または使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命および身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っているとする安全配慮義務は、その保護法益が重要であることから、これを法律で明らかにすることが適当である。
・職場環境配慮義務
 裁判例上、一般的な職場環境配慮義務の内容がいまだ確立されていないため、使用者が保つよう配慮すべき「労働者にとって働きやすい職場環境」の内容が問題となること、また、セクシャルハラスメントに関しては既に男女雇用機会均等法第21条によって一定の対応がなされていることから、労働契約法制において一般的な規定を設ける必要性については、慎重に検討する必要がある。
・個人情報保護義務
 情報化の進展の中で、労働者の個人情報の保護は重要な課題であることから、どのような規模の企業も労働者の同意がある場合や、法令に基づく場合などの正当な事由がある場合を除き、労働者の個人情報を第三者に提供してはならないこと、さらに不正の手段により労働者の個人情報を取得してはならないことなど、労働者の個人情報を適正に管理しなければならないことを、法律で明らかにすることが適当である。
 
 兼業禁止についてのやむをえない事由とは、「兼業が不正な競業にあたる場合や、営業秘密の不正使用・開示を伴う場合、労働者の働きすぎによって人の生命・健康を害する恐れがある場合、兼業の態様が使用者の社会的信用を傷つける場合など」となります。競業避止義務については、対象となる業種・職種・期間・地域を明確にする必要があります。また、退職後の秘密保持義務についても同様に、その内容および期間を書面により明示することが必要です。いずれにしても使用者からのより具体的、合理的な書面の提示が必要とされるということでしょう。一方、使用者の付随的義務に関しては、そもそも労働者が安全に環境的要件を満たした状況下で就業することができるよう、より明確な基準の必要性が指摘されています。



※参照条文
男女雇用機会均等法第21条(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の配慮)
  事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する女性労働者の対応により当該女性労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう雇用管理上必要な配慮をしなければならない。


(労働契約チーム)