FTAで進められる人の移動・外国人労働者の受け入れ

 これまで交渉が続けられてきた日本とタイの間のFTA〔自由貿易協定〕ですが、先月の時点で来年前半に正式に締結して早期発効を目指すことで合意に達しました。日本のFTA締結・合意はシンガポール、メキシコ、フィリピン、マレーシアに続いて5ヶ国目。合意は農林水産品、鉱工業品、投資、国際協力、知的財産保護、人の移動など13分野に亘りますが「人の移動」は交渉相手国にとって高い関心事項があり、タイは、介護士・タイ式マッサージ士・タイ料理人などの受け入れを要望しており、受け入れについての具体的な内容については、今後両国間で詰められることになります。


 タイに先立ち2004年11月に大筋で合意に達したフィリピンは看護師・介護士の受け入れを要望しています。その基本的枠組みは、一定の要件を満たすフィリピン人の看護師・介護福祉士候補者の入国を認め、日本語等の研修修了後、日本の国家資格を取得するための準備活動の一環として就労することを認める(滞在期間の上限、看護師3年、介護福祉士4年)。国家試験を受験後、国家資格取得者は看護師・介護福祉士として引き続き就労が認められるというものです。  


 介護福祉士については、日本語の研修修了後、課程を修了した者に介護福祉士の国家資格が付与されることとなる日本国内の養成施設へ入学する枠組も設けられます。これによって、在留資格がなかった介護福祉士についても条件はあるものの一定範囲で入国・就労が可能になります。看護師・介護福祉士として働くには高度な日本語の能力も要求されますが、入国したフィリピン人に対する日本語研修の支援はODAを用いて行なうこととなっています。


 この協定では、本来ならば日本における医療分野での就労に対しては日本の国家資格を取得した後、入国前にビザが与えられることになりますが、日本・フィリピンFTAに基づく受入枠組みではフィリピンの資格制度を一定程度ではありますが尊重し、さらに入国後一定期間内の国家資格取得を要求し、合格者に対して看護師・介護福祉士として就労するための在留期間を更新するという、新たな受入枠組みを構築することとしています。かなり高いハードルですが、フィリピン人看護師・介護士が日本で就労することに道筋が開かれることになりました。具体的な受入れ人数については、日本とフィリピンの間で今後話し合われることになっています。


 少子高齢化が進む先進諸国では、不足する看護師・介護士を海外からの労働者で補う国も多く、ことにフィリピン国内での賃金などの労働条件の悪さもあって、海外で働くフィリピン人看護師・介護士は約30万人にのぼり、日本でも協定によるフィリピン人看護師・介護士の受け入れにより人手が確保できると歓迎する声もあります。


 外国人労働者の受け入れは、専門的・技術的分野の外国人労働者については、受け入れをより積極的に推進するという政府の基本方針があり、経済の活性化やいっそうの国際化を図る観点から、これからもこの方針に変化はなく人の交流はより活発になると考えられます。また、FTAにおいても、交渉相手国から労働者の受け入れが議題に上ることはフィリピン・タイのほかにも今後も増えることが予想され、少しずつですが門戸を開いてゆくことになると思われます。


 海外からの労働者を受け入れることは将来の日本の社会全体の構築に大きくかかわることであり、危惧される人口の減少、少子高齢化による労働力の不足はまず国内で解決の道を探るべきで、いわゆる単純労働に従事するための海外からの労働者の受け入れについては慎重にすすめられるべきでしょう。


(土方憲子)