労働契約法 報告書に見る注目事項[その12 解雇の金銭的解決制度および合意解約]

 今回は労働契約法制のあり方における研究会報告書の「解雇の金銭的解決制度」と「合意解約」についてまとめたいと思います。


□解雇の金銭解決制度
・労働者からの金銭解決申立には、解雇された労働者が解雇には納得できないが、職場には戻りたくないと思った場合に、解決金を請求できる権利が保障されるというメリットが考えられる。ただし、無効解雇の主張と金銭解決による雇用関係の解消との関係にかかる理論的問題や、特に中小零細企業の問題として金銭の額を一律に定めることの弊害について整理する必要がある。解雇の金銭解決も申立は、解決金の額の基準について、個別企業における事前の集団的な労使合意がなされていた場合に限って認めることとし、その基準をもって解決金の額を決定するなどの工夫をすることも必要である。
・使用者側からの金銭的解決の申立については、反対意見も多いが、違法な解雇は無効とされ、判決時(口頭弁論終結時)までの違法状態は是正されることを前提とした上でその後の問題として、現実に職場復帰できない労働者にとっては違法(無効)な解雇を行った使用者からの申し出であっても解決金を得られる方がメリットがある場合は実際にありうるのであって、そのような措置はまた紛争の早期解決にも資するとの意見もある。
・違法な解雇を誘発するという批判については、解雇が無効であると認定できる場合に労働者の従業員たる地位が存続していることを前提として、解決金を支払うことにより、その後の労働契約関係を解消することができる仕組みとして、違法な解雇が金銭により有効となるものではないこととすることが適当である。
・またいかなる解雇についてもこの申立を可能とするものではなく、人種、国籍、信条、性別等を理由とする差別的解雇や労働者が年次有給休暇を取得するなどの正当な権利を行使したことを理由とする解雇等を行った使用者による金銭解決の申立は認めないとすることが適当である。さらに、使用者の故意または過失によらない事情であって労働者の職場復帰が困難と認められる特別な事情がある場合に限ることによって、金銭さえ払えば解雇ができるという制度ではないことが明確になる。
・労働者側からの金銭解決の申立を認めつつ使用者からの金銭解決の申立を認めないとすることは労使間の自主的な交渉の結果としては問題ないと考えられるが、労働者側からの金銭解決の申立を認めないにもかかわらず、使用者からの金銭解決の申立を認めることは、著しく労使間の均衡を欠くものとして考えられるため許されないとすべきである。


 以前の労働基準法改正の際に、案として提示された解雇の金銭解決ですが、その際は結局廃案となってしまいました。今回報告書において解雇の金銭解決が再び取り上げられましたが、違法な解雇が金銭解決によって有効になる、また違法な解雇が増加することが懸念されるという理由から依然として反発は強いものとなっています。こうした懸念を払拭すべく、今回の研究報告書では金銭解決が可能か不可能かの基準を設定したり、使用者側からの金銭解決は不可能であるなど一定の制限を設けています。しかし、まだ金銭解決が有効な労使紛争解決手段であるのかという結論は出されておらず、今後もさらに議論が重ねられると思われます。


□合意解約
・労働者が合意解約の申し込みや辞職(労働契約の解除)の意思表示を行った場合であっても、それが使用者の働きかけに応じたものであるときは、民法第540条の規定等にかかわらず、一定期間はその効力を生じないこととし、その間は労働者が撤回をすることができるようにすることが適当であってその期間の長さについては、特定商取引に関する法律等に定めるクーリングオフの期間(おおむね8日間)を参考に検討すべきである。
・退職の意思表示の解釈については労働者がこの意思表示をするに至った経緯や事業場の慣行等により異なると考えられ、一律の判断基準を示すことは困難であって、個別具体的な事案に応じて判断する以外にないと考えられる。


 労働契約の合意解約について、使用者側からの働きかけであった場合は労働者の合意解約の申し込みや解雇の意思表示については一定期間その効力を認めないとしています。一定期間は現在のところ、特定商取引に関する法律にある8日間を参考にするとしていますが、購買意思と退職意思を同等に取り扱うことは不合理にも思われ、この期間については、今後も議論されることとなるでしょう。退職の意思表示の解釈については、その方法を一律に限定することは様々な状況下において行われるという性質上、困難であるため、指針として一定基準が示されることとなると思われます。



※参照条文
民法第540条(解除権の行使)
 契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。
2 前項の意思表示は、撤回することができない。


(労働契約チーム:神谷篤史)