労働基準法における「管理監督者」の範囲

 昨日ご紹介した「神代学園ほか事件(東京高裁平成17年3月30日)」には、労働基準法第41条における管理監督者の範囲という、もう1つ大きな論点がありました。世間では「課長にすれば残業代が不要」などと言われることがありますが、その根拠とされるのが労働基準法第41条に言うところの管理監督者への労働時間に関する法規制の適用除外規定です。


 この管理監督者の範囲の問題は、時間外手当支給の取扱いが変わるという点から非常に重要な課題となっていますが、課長というような役職名ではなく、その者の勤務状態などの実態を見て判断され、具体的には以下の3点を充足しているかで判断が行われます。
1)経営に関する決定に参画する権限または労務管理に関する指揮監督権限がある
2)出退勤を始める勤務時間について自由裁量権がある
3)一般従業員と比較し、その地位と職責にふさわしい処遇を受けている


 現実の労務管理の状況を見た場合、以上の3要件の充足というのは実務上、非常に困難であるというのが実態ではないでしょうか。特に2)の要件は非常に厳しく、これを厳格に判断するとすれば、わが国の管理職の90%以上はこれを満たさないのではないかとさえ思えます。最近、マクドナルドの店長が会社を相手に時間外手当の支払いを要求する訴訟を起こしたというニュースが報道されていましたが、この提訴もこの管理監督者の範囲がその論点となっています。


 さて、この問題に関し東京高裁は今回、以下のように判事し、労働者側の請求を認めた上で時間外手当の支払いを命令しています。



「原告ら3名はいずれもタイムカードにより出退勤が管理され(中略)、原告が経営者である被告と一体的な立場において労働時間、休憩および休日等に関する規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないものといえるほどの重要な職務上の権限を被告から実質的に付与されていたものと認めることは困難である。(中略)以上によれば、時間外手当支給の対象外とされる管理監督者に該当する旨の被告および被告学園の主張は採用することができない」




 今後、こうした事件が多く報道され、認知が進むにつれ、同様の請求は増加することでしょう。これまで労使間での暗黙の了解に基づき、積極的に触れられることがなかった論点ですが、今後は多くのトラブルを引き起こす火薬庫になっているように思えてなりません。今後行われるホワイトカラーエグゼンプション制度導入の議論により、前向きな解決が進むことを期待したいと思います。


参照条文:労働基準法第41条(労働時間等に関する規定の適用除外)
 この章、第6章及び第6章の2で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
1.別表第1第6号(林業を除く。)又は第7号に掲げる事業に従事する者
2.事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
3.監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの


(大津章敬)